老樹の新たなふるさと
近年、西洋諸国では環境経済が提唱されているが、台湾でも、老樹を大量移植して緑地パークを作ることで、経済効果をあげている例がある。
花蓮寿豊郷にある怡園は、台湾で最近よく見るリゾート施設の中でもファイブスターの指定を受けた数少ない宿泊施設だ。広大な敷地に木々が生い茂る。園内3000株に及ぶ大樹のうち800〜900株が他所で不要とされた老樹を移植したものだ。
北は台北県烏来にあったウスギモクセイから、南は屏東県枋寮のアカギまで、怡園の責任者である陳勝徳さんは日頃から新聞や雑誌に目を通し、道路拡張や建築物改修のニュースがあるとすぐ赴き、伐採される運命の木を救ってきた。しかも移植された木は生存率100%に近い。
生存率の高さに特別な理由があるわけでなく、単に用いる方法が正しいだけだと陳さんは言う。「人が病気になったら点滴を打つように、傷ついた木にも点滴を打って栄養を与えます。移植した木には一日三回、ホースなどで木の上から下へ水を与えます。表皮の水分が蒸発してしまわないように」と。
木の姿を保つにも方法がある。陳さんによれば、台北市大安森林公園に樹木が移植された時期は、怡園の移植とほぼ時を同じくしているが、現在の木々を比べると怡園のほうが豊かに茂っている。この差は「人には人相、木には樹型があるから」という。一般の移植は枝葉を切り落として行われるが、陳さんは、切らずにすむ枝はなるべく残して元の樹型を残すべきだと考える。
畜産業で成功を収めた陳勝徳さんの樹木との縁は、十数年前に遡る。ある日、自家用のベンツを運転して東部海岸を走っていた際、道路拡張工事のために樹齢百年の木が伐採されそうになっているのを目撃した。陳さんの心に浮かんだのは「ベンツを運転するようになるまで10〜20年ほどの努力だったが、樹齢百年には及ばない。長い年月を経て枝葉を広げ、木陰を提供してくれるまでになったのに」という思いだった。
そこで陳さんは工事の人たちに、「この木は自分が運搬する。運搬料はこちらで持つ」と告げた。それ以来、木が切り倒されそうだと耳にすれば、どんなに遠くても止めに行くようになった。そんな一本一本の木に、感動的な物語がある。
怡園にある木のうち、5階建ての高さ、樹齢400年を超すカジュマルは、園内最高で最大、そして最高齢だ。てっぺんには避雷針まで取り付けられている。移植には総額87万元をかけ、東部最大のクレーン2台とブルドーザー3台を駆使し、東海岸番薯寮の断崖から運んできた。
最初はどんな方法を用いても、この木を動かすことはできなかった。しまいには線香を上げ、老樹に向かって「橋を作るのでここに置いてはおけない。安全な方法でほかの場所に移し、心をつくして世話をするから」と祈った。この語りかけがすむや、まるで奇跡のように作業はスムーズに運んだという。ただし木が大きすぎて、本来なら30〜50分ですむ行程に12時間もかかった。
園内にはほかに、66株のカジュマルが枝葉をつなげて並ぶ並木道があり、緑のトンネルを成している。元は花蓮県の空軍施設に植えられていたもので、用水路拡張のため伐採されることになっていた。陳さんが見た時にはすでに切り倒され、ゴミとして地面に一週間ほど放置されており、葉も黄色く枯れかけていた。無料で運搬すると申し出たところ、ゴミとして扱っていた木に、軍はなんと1株3000元、66株で18万元という値段をふっかけてきた。それでも陳さんは、命はお金に代えられないと、言われるままに支払った。
老樹を大量に移植した後、台湾のWTO加入に備えて畜産業をやめることにし、ニワトリ20万羽、アヒル8万羽、ブタ5000頭余りを飼育していた農場を、今日の怡園リゾートパークに転身させた。ここは「老樹レスキューセンター」「ホームレス老樹の家」などと冗談混じりに称されることもあるほどだ。
花蓮県寿豊郷にある怡園では、不要とされた老樹を集めてきて大切に保護している。