ホームヘルパーは使用人じゃない
月水金の午前中、陳宜方は郭さん宅で2時間働く。家の中を整理し、洗たく、介護トイレの始末、身体を拭く、爪切り、買い物と簡単な食べ物の準備などをする。歯が少ない郭さんは言葉がはっきりしないし、硬いものは食べられない。牛乳や流動食のほかに、陳宜方はスイカジュースや茶碗蒸しを作ることもある。
一週間前、郭さんの胸の皮膚が赤く腫れ、痒くてたまらないと分って軟膏を塗ったが、心配なので台北市の「愛心医療」で医師の往診を申請した。
郭さんの家はエレベータがなく、上り降りが困難なため、ほとんど家から出ない。リビング横の小さい部屋にはベッドが置けるだけで、窓もタンスもない。郭さんは怒りっぽくて頑固だ。厚い背広を壁にずらりと掛けていると、夏にはダニがわきやすいから、娘と陳宜方が整理箱にしまおうとすると怒鳴られる。
40代の陳宜方はスーパーで働いていたが、昨年仕事でケガをして暫く休んだ。昨年11月に介護員として働き始め、現在は週7〜8人を訪問する。仕事の時間は弾力的だが、気分が荒れたり文句の多い老人に理由も無く責められても「絶対に口ごたえしない」規則のため、口惜しい思いもする。
「時々情けなくなります。特に掃除婦や使用人扱いされるのが一番頭にきます」態度の悪い訪問先に当たったこともある。足を骨折して動けない55歳の男性は、彼女に床の雑巾掛けと窓拭きをさせた。以前のヘルパーはしていたと言って強制して、犬のシャンプーまでさせられたこともある。
尊厳を踏みにじられた心地だった。「政府の福祉を何だと思ってるんでしょう。講習を受けた介護員として、手助けに来ているのであって、使用人じゃないんです」仕事の条件が悪いため、協会の離職率は高い。態度が悪く人を尊重しない訪問先については事務に報告し、サービス量を削減して、行政のリソースの無駄を防ぐ。
健康第一、清潔第二
当初、郭さんも良くない振る舞いがあった。血圧を測ったり身体を拭いたりしていると、胸を触ったりお尻をつねったりしてきた。好きにさせておくわけにはいかないから「父親として相手をしていますから、そういうのはやめてくださいね」と、すぐに部屋を出て、リビングで気を鎮めた。そして郭さんの娘に話し、行為を抑制するよう協力を求めた。
老人は関心が注がれていないためにこのような振る舞いをしてしまい、自分でどうしたらいいのか悩んでいることも、彼女は分っている。それでも彼女は仕事の本分をきっちり守り、火・木は郭さんの家には行かないが、天気の変わり目には電話して注意を促す。また、もとはヘビースモーカーだった郭さんは、毎日2箱のタバコが、娘と彼女の勧めと監視の下、今では一日10本に減った。陽明病院家庭医学科の医師も、郭さんは身の回りのことを自分でよくできると賞賛する。
トレーニングを受けた陳宜方は自分の役割をはっきり見極めている。「要介護者の健康を第一に、身の回りの清潔を第二に」脊椎手術を受けた患者にマッサージを行い、萎縮した関節をゆっくりと動かし、「自分で階段を上がる」という目標も与えた。寝たきりの患者がマッサージとシャンプーの後で見せた、気持ちよさそうに目を閉じた表情に、仕事のやりがいを感じた。
体力がもたないため、陳宜方の仕事量は週に20〜30時間だ。協会の事務費を差引くと、彼女の時給は150〜180元(台北市は時給230元を支給し、事務費が21〜34%になる)で、毎月平均1万5000元、多いときでも2万元にしかならない。
長期介護政策を実施して何年にもなるが、目的は要介護者も一定の生活の質を保つことにある。体力も精神力も消耗する仕事には、待遇の悪さや、免許制度の確立、等級別料金の調整などの課題がある。しかしもっと大きな問題が、社会の価値観の是正だ。社会が介護員を尊重して、初めて熱意をもった人がより多く参加し、地域ケアの柱となってくれるのである。