研究開発で成長
サービス業は台湾のGDPの7割を占めているが、経済成長率への貢献は30~50%に過ぎない。
今年、台湾の貯蓄超過率は過去最高となり、これは投資も消費も控えている人がいることを示すと龔明鑫は言う。貯蓄超過とは、国の貯蓄と投資の差額を指し、その率はGDPに対する比率で表す。2004~2008年、台湾の貯蓄超過率は5~8%だったが、2009年には10.5%、今年は10.23%の1兆5000億で、金融危機の発生した2009年に次ぐ水準となっている。
その話によると、国民は将来の収入が持続的に増加すると見込める時に安心して消費するもので、収入が増加しない時、国内市場は停滞する可能性がある。
それを解決するためには高所得者の消費を刺激するべきだと龔明鑫は考える。台湾の世帯所得の五分位別でみると、所得上位20%の世帯貯蓄率は35%で我が国の家計貯蓄の70%を占める。日本の所得上位20%の世帯貯蓄率25%と比較しても10ポイントも高い。台湾の高所得世帯の貯蓄率を日本の水準まで下げられれば、消費市場に年間4000億が流れることとなる。
サービス業の構造転換も必要だ。
商業発展研究院商業政策研究所の所長で台湾大学国家発展研究所の杜震華教授によると、台湾のサービス業は中小企業が中心で、設備や研究開発に資金をかける余裕がなく、海外へ進出するのは難しいと言う。米国のUPSやドイツのDHLなどは、数百機の航空機を持って世界にサービスネットを展開し、研究開発にも力を入れている。
ドイツのケルン・ボン空港近くにはDHLのイノベーションセンターがあり、毎年10万人が見学に訪れる。ここでは顧客のニーズに応えるための新しい物流を研究している。受取から届け先までの最短距離を計算するトラックや、輸送中の薬品や食品の温度を管理するセンサーなどもある。
杜震華によると、米国、カナダ、オーストラリア、英国など、サービス業の発達した国の企業の研究開発費比率は20~40%で、製造業中心の台湾や韓国の7~9%よりはるかに高い。台湾のサービス業生産力が2000年以降、製造業より低くなっている原因はここにあると考えられる。
「サービス業の研究開発には政府が投資しなければ次の発展の波に乗れません」と言う。
当面の急務は人材育成
王品の戴勝益董事長は、2年前にフィリピンの企業と交流した際、自社の管理職の多くが英語をうまく話せないことに気付き、これは王品の国際化にとって大きな課題だと感じた。
かつてサービス業の給与は高くなかったため、優秀な人材を集めることは困難だったが、最近はこうしたイメージは変わりつつある。
観光産業発展の最大のネックは人材にある、と話すのは全国飯店の副董事長で台中ホテル同業組合理事長の柴俊林だ。今後数年、台湾には30以上のホテルが建設される予定で、多数の管理職が必要となり、人材の争奪戦となる可能性もある。
サービス業者の多くも、人材こそ競争力向上のカギと考えて布陣を開始している。
2年前、葬儀社の龍巌人本は、日本の著名建築家・安藤忠雄に依頼して新北市三芝の白沙湾に26ヘクタールの墓園を建設し、葬儀社のイメージを一新してブランドを確立した。昨年は、台湾大学国際企業研究所で同社の事例が教材とされ、葬儀社が初めて経営学で扱われた。台湾大学は龍巌人本と学生の実習などでも協力している。
観光市場の競争激化
だが台湾は輸出大国で、国内市場は限られている。現在の盛況は一時的なものなのだろうか。
台湾は小型の経済体なので内需は国際情勢によって変わると龔明鑫は指摘する。世界的に景気が良く、輸出が伸びれば内需も拡大する。
特に、世界の景気が回復すれば、台湾では観光産業が大きく成長すると見られている。
2008年に中国大陸からの観光が開放されて以来、来訪者数は増え続けている。2009人には大陸の観光客が日本人観光客を抜いて全体の3割に達し、昨年は海外からの観光客が初めて600万人を超えた。台北のホテルは連日満室で、外国語・中国語観光ガイドの受験者も年々増えている。
大陸の観光客については、昨年6月に個人旅行も開放され、第二波の発展が期待されている。大陸側が10都市からの個人旅行を自由化する可能性もあると見てホテル建設が進んでおり、800億近い資金が投じられている。
内需の逆転を期待
観光客の誘致には世界各国が積極的に取り組んでいる。経済学者の馬凱は、台湾にとって観光産業は製造業よりはるかに重要だと考えており、「私たちは金鉱を目の前にして、砂金を拾うだけで満足している」と指摘する。
「問題は中国大陸からの観光客しか見ていない点にある」と馬凱は言い、観光客を大陸だけに依存するのは、輸出先として大陸に依存するよりリスクが高いと指摘する。なぜなら、輸出入は相互依存関係であり、大陸側が台湾からの輸入を停止する時は自国のダメージも考慮しなければならないが、観光はそうではないからだ。大陸側が台湾への観光を停止しても、大陸には何の損失もなく、大きなダメージを受けるのは台湾だけだ。
台湾は自然景観や文化などの観光資源においてタイやマレーシアにも引けを取らないが、なぜタイやマレーシアは欧米の観光客を多数引きつけられるのに、台湾は中国大陸の観光客からしか稼げないのか、と馬凱は問う。十数年にわたって政府も企業も観光産業のインフラを軽視してきたからである。台湾では景勝地にトタンの家屋や屋台が乱雑に並び、まるで途上国のようだ。物価は韓国より安いのに、旅費は韓国より高いという状況も早急に改善しなければならない。中国大陸以外の地域からの観光誘致も重要だ。
今後のサービス業の発展について、経済部は、グルメ産業発展の他に、台湾を華人圏の低価格ブランドセンター、ショッピングセンターにし、アジアの広告サービス基地、アジアの展覧会・国際会議センターにするなどの青写真を描いている。いずれも産学協力と研究開発が必要であり、各種分野の人材を育成しなければ達成できない。
美食、観光、健康、ペットなど、サービス業は次々と発展しつつあり、それぞれ一歩ずつ着実に歩んでいけばよい。私たちはサービス業変革の恩恵に与りつつ、それを見守っていきたい。