省電力でサステナブル
2007年にアマゾンの初代Kindleが発売されて以来、人々の読書体験が変わった。現在の市場では、電子ペーパーと言えばやはり電子書籍リーダーが主流だが、実はその応用範囲はこれだけにとどまらない。
2022年にアメリカで開かれたコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)で、ドイツの自動車ブランドBMWがコンセプトカーBMW iX Flowを発表した。車体の色が変わる技術は、E Ink元太科技が開発した変色する電子ペーパー技術を用いたものだった。
航空運輸の分野にも応用できる。振曜科技とE Ink元太科技、それに国際的なスーツケースメーカーのリモワ社と航空会社という異業種のコラボレーションで、スマートスーツケースが開発された。スーツケースのタグの情報をデジタル化するというものだ。振曜科技グループの林志茂董事長によると、新型コロナが流行する前の2019年、飛行機を利用する旅行者は世界でのべ45億人に上っており、これほど多くの人が荷物につけるタグだけでも大変な数になる。これを電子タグにすることで、二酸化炭素排出量も削減できる。
また、小売業の商品陳列棚につける小さな値札ラベルは、交換するだけで多くの人手と時間がかかり、これを電子化すれば大きなメリットが得られる。ワイヤレスネットワークやRFIDなどの技術を利用すれば、即時に表示を切り替えられ、海外の多くの大型小売店では、すでに電子ラベルが導入されている。
スマート医療分野での応用もある。振曜科技では入院患者の病床カードが手書きされているのを見て、台湾の栄民総病院や台湾大学病院、国泰病院などと協力し、電子ペーパーの病床カードを導入し、随時情報を更新できるようにした。
スマートシティでの運用もある。林志茂によると、バックライトの必要がない電子ペーパーのバス停表示板は、どんな天気でもはっきりとバスの運行情報や路線情報を表示できる。また、双安定性という特性から、電源を切っても画面表示は残るため、自然災害などの時には電子ペーパーによる情報通知が優位になる。
省電力の面から見ると「電子ラベルを毎日1回交換するとすれば、世界で3万トンの二酸化炭素排出量を削減できます。一本の樹木が一年に12キロの二酸化炭素を吸収すると言われるので、3万トンで計算すると、250万本の植樹をしたのと同じ計算になります」と林志茂は言う。
各界が電子ペーパーの将来を期待しているが、その趨勢は右肩上がりというわけではなく、さらなる市場開拓が待たれる。世界中で多くの企業が電子ペーパーの開発に取り組んでいるが、道なかばでやめてしまう企業も多く、産業のビジョンを見出してやり続けた者だけが勝者となる。
電子ペーパーの応用範囲は広い。スーツケースのタグ、メモ帳、商品陳列棚のラベル、IDカード、掲示板など、紙を使っているところはすべて電子ペーパーに置き換えられる。