大切な「住みやすさ」
台中の太原駅から徒歩5分ほど行くと、白をベースに淡い緑色の横線の入った10階建ての「北屯眷恋山光好宅」が見えてくる。ここはかつて台湾省政府新聞処の官舎だった「長安新村」の一部で、今は弱者が優先的に入居する賃貸の公営住宅となっている。
「私は、眷村(1949年に国民政府とともに大陸から移住してきた軍人やその家族が集まって暮らしたエリア)のような近所同士が気軽に行き来する人間関係が懐かしいのです」と姜楽静は言う。彼女はそのような理想を設計に取り入れた。本来の都市機能として敷地内の通りを残し、公営住宅は2棟に分け、それぞれが独立しつつ広いスペースでつながるようにした。「1フロア当たり10世帯ほどというのが最適の数です」と姜楽静は説明する。これぐらいなら隣近所が互いに知り合いになれるが、10世帯を超えると見知らぬ関係になりがちだと言う。
2棟がつながるスペースは2階と5階にある。高さ10メートル近い吹き抜けの半屋外の空間だ。床はラバーシートで高齢者や子供の安全に配慮してあり、黄色、オレンジ色、青、緑と大胆な色彩を配し、住民同士が活発に交流できる生き生きとした空間を目指した。周囲は壁ではなく手すりにすることで、眷村の竹垣のようなイメージを作り出した。姜楽静は芸術家の友人のアドバイスを受け、木の色、オレンジ色、銀色の3色を用い、1対1対3の割合でリズム感を出している。
姜楽静は、この公共空間は一つの劇場であり、皆がそれぞれに自分が快適に感じるスペースを見いだせればと考えた。「この公営住宅には10数ヶ所、おもしろい場所があり、退屈することはありません」と言う。最上階は、1戸1世帯という形ではない。ここに暮らす5世帯は、それぞれ自分の浴室やトイレを持つが、一部のスペースには共同のリビングや食堂、キッチンがある。人と交流するのが好きな人や、若者と高齢者の組み合わせなどにふさわしい。これは設計者による社会実験であり、未来の暮らしに対する一種のイマジネーションなのである。
一般の住宅では面積の使用効率を重視するが、姜楽静は容積率いっぱいまで建てることはせず、220世帯のためにより多くの公共の場を設け、また大自然と緑のための空間を残した。
「長安新村」は1963年に官舎として建てられ、その時に植えられたマンゴーやリュウガン、ライチ、スターフルーツなどの果樹が今では3~4階の高さにまで達している。姜楽静はこれらの樹木を切るのではなく、できるだけ周囲に移し、建物は後方に設けることにした。さらには老樹が枝葉を伸ばせるように3階の一部を犠牲にしたのである。良好な通風と採光は住宅にとって最も重要な要素なので、2棟の間の距離は広めに取り、建物は周囲の建物より高くして涼しい風が通るように工夫した。
さらに、すべての部屋に窓を設けて四季の陽光を取り入れられるようにしている。設計上は一般の住宅より手間がかかったが、日照権は住居の基本的権利なのである。
公営住宅は立体の集落のようなもので、さまざまな人が入居する。「私は、一般大衆のための設計に合っているのだと思います」と言う通り、建築家は設計の魔法を活かし、「住みやすさ」の多様なイメージにさまざまな可能性をもたらした。
緑川にかかる木構造の橋は、都市の暮らしに多様な可能性をもたらす。