老いる前に始まる衰え
意外なことに、老眼や白髪に気づき悩む以前から、老化はすでに密かに始まっている。
「生れたその日から老化は始まり、止まることはない」と、台北栄民総病院高齢医学センターの陳亮恭主任は著書『成功老化』で、身体や内臓の老化は20歳代から始まると言う。肺機能は25歳前後から衰え、骨量も増えることはなく減る一方である。皮膚も25歳前後から老化の兆候が現れ、脳も20歳を頂点に衰えていくばかりである。
35歳になると人体では全面的崩壊が始まり、40歳前後で老化の兆候は明瞭になる。衰えたと感じるだろうか。何歳から老齢なのだろうか。老いは主観的な感覚だが、客観的な判断基準がある。
台湾大学皮膚科の蔡医師によると、顔色が斑になり、正常ではない突起物や皺が出て、毛穴が大きくなり、筋肉が弛緩し、脂肪の分泌が変り、輪郭が老いを見せると老けを感じさせる。しかし、現代医学の美容技術のおかげで、現代人の見た目はどんどん若くなってきた。
医学は新しい美感を生み出し、額、鼻、頤を三等分するなど一定の比率で美を定義する。美容整形技術を施せば、満足できる程度に調整できるが、調整が過ぎると、外見は若々しくとも、不自然に見えることになりかねない。
現代生活が老いを加速
医学の進歩は人の寿命を伸ばし、見た目を若くするが、外見は誤魔化せても身体年齢が若返るとは限らない。中から腐るというように、内蔵機能から老いるのである。
仕事が忙しく、不規則な食事やプレッシャー、運動をしない生活が、老化を早める恐れがある。生活習慣病を持つ現代のサラリーマンは、見た目は元気でも不健康な要素を内に秘めている。ほっそりとしたウェストを維持して、メタボ症候群を予防する必要もある。
有名な整形外科医によると、これまで60歳以上の高齢者によく見られた退化性関節炎が、肥満や不適切な運動で発生が10年早まり、関節に若年性の老化が見られると言う。
台湾千禧之愛健康基金会が2007年に発表した「台湾人身体年齢調査」によると、身体年齢が実年齢より30歳上という人が4割もいて、うち21~35歳の老化が深刻だった。また胃腸病、高血圧、高脂血症、高血糖などの老化の兆候が、早くも30歳で始まっている。老眼も目の使いすぎや栄養不足で、出現が早まる傾向にある。
中華民国眼科医学会が2007、2008年に会社員を対象に角膜の検査分析を行った結果、21~40歳の青壮年の4割に角膜の酸素不足という老化現象が見られた。角膜細胞を退化させる不適切なコンタクトレンズ使用が原因である。三軍総病院眼科の戴明正医師は、早くからコンタクトの使用を続けると、角膜の内壁細胞が酸素不足で傷ついて、傷つくと細胞が減少し、老化を早めるという。
若者の老化が早まると、児童も早熟になる。
環境汚染、エストラジオールで汚染された食物や日常生活に溢れる化学物質のため、世界各地の児童の発育が早まる傾向が見られる。性的に早熟すると、相対的に老化も早まる。
漢方医の楼中亮によると、漢方の観点では早衰は百病の源で、児童の早熟も老化の一種である。「早熟は子供の生命過程が早まることで、相対的に余命も短縮されます」と楼医師は言う。
青春を取り戻せるのか
台湾の人気ドラマ『我可能不会愛你』に出された「初老症状50条」では、用もないのに朝早く目覚め、医療ニュースに関心を持ち、誕生日を嫌い、独り言が多いなどが挙げられ、30歳を過ぎて中年に足を踏み入れた男女の共感を呼んだ。
青春は飛び去り、二度と帰ってこない。白髪が黒くなり、老眼が治ることはないのだろうか。
台湾大学皮膚科の蔡呈芳医師によると、白髪が黒くなることはあるという。たとえば化学療法を受けて抜けた髪が生え変わると、前より黒くなる。これは細胞が再調整して幹細胞が再生すると、メラニン色素が再び呼び起こされるからである。しかし、こういった特殊な状況を除くと、白髪を黒く戻す妙薬はいまだに発見されていない。
漢方には形で形を、色で色を補う考え方があって、黒ゴマなど黒い物を食用すると、髪が黒くなると言うが、効果はあるのだろうか。霊芝や黒豆を食べたら髪が黒くなったと患者は信じるが、それは偶発的なケースで、科学的に実証されていなければ、通則とすることはできない。
美容師として30年余りの経験のある真子さんの話では、あるお客が白髪を黒くするために木耳や黒ゴマを食べ過ぎて気分が悪くなるほどだったが、白髪は増え続け何の効果もなかったと言う。
医学の進歩で若返り
医学的には、白髪は染めればいいので重視される問題ではない。ヘアダイの化学剤に発がんリスクがあったとしても、白髪を黒髪に染めようとするのである。
蔡医師によると、統計的にはカラーリングを扱う美容師は長期的に化学薬剤に触れるため、膀胱がんやリンパ腫の確率が高まることが分っている。但し、一般的には1ヶ月に1回程度であれば安全な範囲内と言える。
しかし、もう一つの悩みの老眼は、眼科が力を入れている研究テーマである。
三軍総病院視力保健科の戴明正主任は、すでに新しい視野を取り戻す方法を見出している。たとえば、いま導入されているフェムト秒レーザーは「20秒で老眼鏡にさよなら」をコピーに、老いを見せたくない老眼族に訴えかけている。手術は片目で9万台湾元と高価で、しかも単純な老眼にしか適用できない。戴主任によると、近視のレーシックが角膜を切除するのに対して、老眼のレーシックは同心円を描いて、角膜に多フォーカスをつける(角膜にレンズを作る)のである。
レーシックに加えて、根本的に筋肉の調整力をつけるか、水晶体の調整力を増加して調整力を回復(一時的だが)する研究も行われている。角膜を傷付けずに老眼の問題を解決するもので、将来が期待されている。
老化の成功
作家の王文華は「私は中年」の一文で「男は中年に至ると、言葉、髪、テストストロンとすべてが少なくなる」と嘆くが、それでも「家庭状況や富と地位は大きく異なるが、老化という一事においては不思議なほど公平である」と慰める。
人は誰でも老いるが、その老い方は老後の生活の質に影響してくる。台北栄民総病院高齢医学センターの陳亮忝主任は、その著書『成功した老化』でこう書く。老化は不可逆的だが、若い時に運動や食事で体の資本を蓄えれば、老後に機能を維持できて、老化に成功できる。老化の過程で蓄える体の資本とは、骨量と筋肉である。
「老化の過程で最も減少するのが筋肉」と陳主任は言う。研究によると、20~70歳で骨格と筋肉量が少なくとも4割減少すると言う。そこで若い時から運動の習慣をつけておけば、老化は防げないものの、筋肉の量は維持できる。
「昔から美人は名将のごとく、この世に白髪であることは許されない」と言うが、美人も英雄も歳月の残酷な洗礼には逆らえない。しかし、老化に成功するには、外見ではなく心身の健康を維持すればいいということになる。美人に晩年が訪れ、英雄が甲冑を解いたとしても、晩年を楽しむことはできるのである。