台南古民家文化の自覚
台南にはこうした建物が特に多い。早くから発達したからではなく、急速な開発による打撃が少なかったからである。だがいつまでも同じ状況は続かない。どんな街にも新たな発展と開発がやってくる。
台南成功大学の建築学科と歴史学科の教授グループは、台南には歴史ある空間文化遺産が数多くあるにもかかわらず、建築学科の学生が歴史的建造物の保存を研究するのに、はるばる日本やヨーロッパへ行かなければ実際の事例が見つからないことに気づき、非常に残念なことだと考えた。
そこで、教授グループは民間の力で歴史的建造物を守ることを考え始め、また、台南の古民家の保存と利用・教育に役立ちたいと願い、「財団法人古都保存再生文教基金会」を設立した。その周知活動によって、古い建築物の価値が台南の人々に重視されるようになってきている。
民間による自発的な古民家のリノベーションは、この8~9年で台湾全土に広がった。都市の味わい深い記憶の空間を今に伝えて、観光ブームにもつながっている。
この基金会では2006年から「老家屋新活力賞」を実施してきた。台南の街角で古い建築物を再利用した優れた事例を発掘し、広く紹介して共鳴を呼んでいる。
しかし残念なことに、ここ数年の台湾観光の急速な発展に伴い、当初古い建築物の保存を呼びかけた文化の自覚の精神が、いつのまにか違うものになってしまった。
「歴史的環境と古い建築物の保存の最も中心的な価値は『人』のはずです。人を主体としない保存は、魂を失った抜け殻です」と基金会執行長の顔世樺が気がかりな現象を語る。リノベーションを、功利的な用途だけ、観光振興だけに注目して行えば、投資や商業行為ばかりを促進して、街の本来の姿が消えていくことになり、居住生活に影響するという。これを制限しなければ逆に生活文化を呑み込んでしまい、都市文化の消失を加速してしまうのである。
歴史ある都市はそれ自体が文化である。世界中の都市において、古い街の暮らしを保存することが重要な課題となっている。