竹産業チェーンを
ICDFの招きを受けてドミニカ、エクアドル、ニカラグアなどに赴き、ワークショップで竹工芸デザインの応用を紹介した専門家や学者は、周育潤が初めてではない。
「20数年前すでに、ICDFは台湾の農芸専門家、竹細工職人などの技術団をハイチに派遣し、竹産業を支援するプロジェクトを進めてきました」と、財団法人国際合作発展基金会技術合作処の柳世紘・副処長は語る。
柳世紘によれば、飛行機でハイチ上空を飛べば、隣国のドミニカとの差がよくわかるという。「上空から見ると、ドミニカ側はうっそうと森林が広がっていますが、ハイチ側は黄色い大地がむき出しになっています」開墾や乱伐によって森林破壊の進んだハイチは、資源不足に悩んでいた。環境を改善するために、また現地の気候条件も考慮して、ICDFは5~7年で成長する竹を森林再生の作物として選んだ。
竹を選んだのは、ほかの木のように伐採してしまうと再び一から木を育てなければならないという必要が竹にはないからでもあった。「竹林は、伐採すればするほど茂っていくのです」と柳世紘は言う。
こうして1980年代末にICDFは人手や資金を提供することによって、ハイチでの竹産業プロジェクトを援助した。
そして、その何年か後には、ハイチの竹林面積は拡大し、当初の目標に達した。プロジェクトの推進地域も、ハイチから、中南米近隣のグアテマラやエクアドルへと広がり、その目標も最初の「貧困を助ける」といったものから、国民の所得を高め、日常生活の満足度を高めるものへと変わっていった。竹苗栽培から加工デザイン、マーケティングまで、整った竹産業チェーンを作ることを目指したのである。
柳世紘によれば、ハイチでの竹産業プロジェクトが始まった当初は、援助の対象は多くが農家など個々の家庭で、彼らの収入の足しになるようにと、竹で簡単な家具や工芸品を作ることが指導された。
だが1990年代に入って、ICDFは方策にやや調整を加える。本来の造林栽培計画に加え、台湾から竹合板加工機を導入し、加工も行う方向へと進めたのだ。
現地ではそれまで竹の加工技術がなかったため、単に竹を割って、簡単な製品を作るしかなかった。だが、加工機を導入すれば、竹合板を作れるようになる。竹合板の硬度は木材に劣るものではなく、家具製造ばかりか、建築や内装の建材などにも使用範囲が広がり、竹産業の拡大化が実現し始めた。
こうして20数年来、ICDFによる竹産業プロジェクトは、竹林の栽培面積を広げただけでなく、ドミニカ、エクアドル、ニカラグアなどにおける竹加工センター設立につながり、今後は栽培、加工、生産のほか、その後のマーケティングにもつなげ、竹産業チェーンを整えることが期待されている。
だが、産業チェーンの形成はそれほど簡単なことではない、と柳世紘は言う。それには、「市場規模の拡大がカギとなる」と。もし規模が小さいままで竹産業に魅力がなければ、栽培や生産を始めようという人は増えない。そこでICDFは、プロジェクトを開始する前には必ず関係各国を集めて国際シンポジウムを催し、専門家や業者に参加してもらって、彼らの経験を分かち合うようにしている。現地での竹産業推進にそれらを生かしてもらうためだ。
柳世紘はこう話す。竹産業プロジェクトは、経済や商業的角度からだけでとらえられることが多いが、実は、そこには環境保全のコンセプトが含まれている。つまり、一般の樹木に比べて生長の速い竹林は保水機能が極めて高く、環境保全にも有利に働くからである。「したがって、ICDFの進める竹産業プロジェクトは、産業援助でありながら、環境保全の推進にもなるのです」と柳世紘は説明する。

国際合作発展基金会(ICDF)はドミニカの現地住民を対象に竹栽培に関する研修会を行なった。