台湾の食材を世界へ
海外での経験が長く、各地の高級レストランで食事をする機会も多かった何奕佳だが、意外にも台湾料理に野心を抱いている。「ファインダイニングと言うとフランス料理を起源とし、日本にも懐石料理があります。台湾では屋台のB級グルメが有名ですが、台湾の文化や美意識、質感を表現する台湾のファインダイニングもあるべきだと思います」と言う。
そして彼女はこれを実現した。「山海楼」は3年連続してミシュランの一つ星を獲得したのである。コロナ禍の前は、お客の3~4割は外国人で、彼らが求めるのは豪華で手の込んだ台湾の宴席料理だった。
あまりにもおいしいので、料理ひとつ一つの背後にある物語が忘れられがちだ。米の一粒一粒も野菜も、サステナビリティの最高基準を堅持し、しかも台湾原産種の食材を用いている。台湾の先人たちが最も早くから食べていた黒毛豚や黄牛、古い品種の鶏などだ。鮮魚も、一本釣りや延縄漁など持続可能な漁法で得たものを使う。また、台湾の原住民族がよく用いるカラスザンショウを使ったり、天然のキノコを炭火で炙ったりする。こうしたこだわりを続けるには、繁雑な作業と長い時間が必要となる。私たちが取材に訪れたのは4月だったが、彼らはすでに契約農場に来年の春節のための鶏の注文を出していた。「卵から孵して育て、処理して検査に送る必要がありますから」と何奕佳は長い工程を説明する。
2021年、山海楼はミシュランの一つ星だけでなく、サステナブルな取り組みを評価する「グリーンスター」も獲得した。今までに台湾でグリーンスターを取ったレストランは2軒だけだ。スタッフにとっては一つ星よりグリーンスターの方がうれしかったと言う。グリーンスターの獲得は、シェフのメニュー作りやコックの調理に加え、食材の仕入れや生産管理部門の努力が認められたことを意味する。「シェフだけでなく、スタッフ全員の力も試されるのです」
従来の農業社会を振り返ると、男は外、女は家庭という分業が行なわれていた。食事の用意をするのは女性であり、家族の健康のカギを握っていたのである。現代社会において、女性は家庭を出て社会で活躍するようになったが、現代でも女性の多くはさまざまな経緯によって家族の食を守る役割を担っており、そこには個人の意思や女性らしい細やかさや優しさが見られる。食と農業の分野に携わって20余年になる何奕佳も、まさにその通りなのである。
Green & Safeの店舗では主に生鮮食品と加工食品を扱い、輸入食材や健康食品はほとんど置いていない。
無添加とトレーサビリティを追求するオリジナルブランド。