2年前、経済学者のフィリップ・コトラーはASEANを「アジアの新勢力」として大いに称えた。当時、アジア金融危機から10年を迎えたASEAN諸国は、各国の努力と集団の力で再び立ち上がり、しかも組織として力をつけ、生産基地としてもマーケットとしても、その発展可能性は決して見過ごせないと述べたのである。
コトラーの目に「地域の奇跡」と映ったASEANには、すでに多くの国が注目している。しかし台湾は隣りに位置しながら、ASEANのことをあまりよく知らない。
最近は「台湾は中国大陸とECFA(両岸経済協力枠組協定)を結ぶべきか」が議論されるようになった。そこにはASEAN+1やASEAN+3自由貿易地域にも関わってくるが、国民の多くはまだASEAN(東南アジア諸国連合)のことも、その台湾との関わりについてもよく知らないのである。
東南アジア10ヶ国から成るASEANは、世界的な地域統合の流れの中で2010年には「ASEAN自由貿易地域」を確立する。さらにさまざまなルートを通して、中国、日本、韓国、それにオセアニアまで地盤を広げ、それぞれと二国間の自由貿易協定締結を進め、さらには日中韓の3ヶ国、あるいはそれにオーストラリア、ニュージーランド、インドを加えた6ヶ国との多国間協定へと発展させつつある。
東アジアの経済統合が進む中、台湾だけは特殊な政治的要因からASEAN+Nに加われない。しかも、台湾は東アジア(ASEANと日中韓)と経済的に密接な関係(2007年、同地域との貿易額は対外貿易総額の54%、投資額は全体の75%を占める)があるにも関わらず、東アジアの大多数の国の間で関税・貿易障壁が取り除かれる中、台湾だけは「域外」とされるのである。
ASEAN+Nの数々の組み合わせの中で、一般には「ASEAN+中国」が台湾にとって最大の脅威になると見られている。台湾の対外輸出額の4割を対中輸出が占めているからだ。2010年に人口18億の自由貿易地域が確立したら、台湾企業はASEANを通さなければ競争力を維持できないのか、これは台湾の企業と産業にどのような衝撃をもたらすのだろう。
地域経済統合は、内外企業の投資配置や産業分担などさまざまな面に複雑な影響を及ぼす。
この「地域統合」の趨勢を理解するために、本誌は、最も大きな衝撃を受ける「繊維産業」からASEAN統合の影響を探ってみた。ベトナムとタイにある新旧の台湾企業を訪ねて彼らの対応策を理解し、「台湾企業を守る」ことと「台湾を守る」ことの複雑な関係を明らかにする。
カバーストーリーの「台頭するASEAN」ではその発展の脈略に光を当て、さらに「ASEAN統合」「ASEANの教育ビジネス」「タイ、ベトナムの台湾企業から見たASEAN統合」は来月号に掲載する。