サンフランシスコ時間の2016年6月17日午前10時、ベイエリアのアジア美術館で、開館50年来の最大のイベント「国立故宮博物院特別展」がオープンした。

開幕前のパーティには両館の代表や現地の文化芸術関係者、メディア、華僑代表、そして我が国の駐サンフランシスコ代表処の人員が集まった。またカリフォルニア州のジェリー･ブラウン知事が自ら特別展を訪れ、アジア美術館のジェイ･シュー館長の案内で宝物を一つ一つ鑑賞した。特に毛穴まで見えそうな「肉形石」の前では腰をかがめて見入り、その迫真の工芸を称賛した。

「帝王の宝物—国立故宮博物院特別展」のポスターに採用されたのは、イタリア人宣教師ジュゼッペ・カスティリオーネの作品「昼白鷹」。

台米交流を海外メディアも重視

今回の特別展は1996年に米国5大都市を巡回した大規模な「中華至宝展」から20年を経た台米文化交流の一大イベントである。166組233点の特色ある所蔵品が海を越え、サンフランシスコと、米国第四の都市ヒューストンで展示される。

サンフランシスコでの展示期間は6月17日から9月18日、外交部と駐サンフランシスコ代表処の馬鍾麟処長および全スタッフの努力によって、今回の特別展が実現した。米国の主流メディアもこれを大きく報じた。シカゴのテレビ局ABC7は「皇帝の宝物：台湾を発見」と題する30分の特別番組を放送し、我が国のイメージを大いに高めた。ヒューストン美術館での展示は2016年10月23日から2017年1月22日となる。

アジア美術館はサンフランシスコ屈指の美術館で、6000年以上にわたるアジアの文物や芸術品を1万8000点以上所蔵している。今年はちょうど創設50周年に当たり、国立故宮博物院による海を越えた特別展には大きな意義がある。6年にわたる話し合いと2年の準備期間を経て、ようやく今回の特別展が実現した。

世界四大博物館の一つである故宮が、貴重な収蔵品の貸し出しに同意するのは容易なことではない。今回の特別展の実現はアジア美術館のジェイ･シュー館長の努力に負うところが大きい。シュー館長は2009年以来、毎年故宮博物院本院を訪れ、特別展開催を積極的に打診してきたが、展覧会のテーマについてはなかなかコンセンサスが得られなかった。

特別展開幕式に自ら出席したカリフォルニア州のジェリー･ブラウン知事（左から2人目）は、中国皇帝の肖像という概念に興味を示した。

海外展示の困難

2013年になり、故宮博物院は「十全乾隆——清高宗特別展」を開催。シュー館長はこれを見て、「皇帝のコレクション」をテーマに展覧会を開き、アメリカの青少年に中華文化に触れてもらいたいと考えた。そして返礼として2017年にアジア美術館の所蔵品を故宮南院で展示することを申し出た。この誠意が故宮側の心を動かし、馮明珠･前院長が在任中に同意したのである。

アジア美術館は、現代アートや文化活動が盛んなサンフランシスコにあって、長年にわたりアジアの芸術文化の紹介に力を注いできた。

アジア美術館には貴重なコレクションが少なくない。西暦338年の後趙の金銅坐仏は現存する最古の中国の仏像であり、また商代の犀を象った青銅酒器も同館の至宝である。

開幕式に出席できなかった林正儀院長によると、今回アジア美術館は最高規格で特別展を行なっており、世界の著名博物館がこれに注目している。「最近はフランスやオーストラリアの著名博物館からも交流展のオファーが来ています。今後は世界との交流を増やしていくだけでなく、国宝級コレクションを民間にも出していきたいと考えています」と言う。林正儀院長は、海外との交流の他に、故宮の所蔵品と地域の資源を結び付け、さまざまな企画を通してより多くの人に素晴らしい文物に触れてもらいたいと考えている。

サンフランシスコのアジア美術館は、アジア文明のコレクションで広く知られている。エントランスには同館の永久収蔵品、台湾のアーティスト洪易の作品「大福龍」が飾られている。

アメリカの国家補償制度

今回の特別展が実現したもう一つの鍵は、アメリカ政府がアジア美術館の国家補償制度適用申請に同意した点にある。美術館は非営利機構であり、美術品の保険料は巨額の支出になる。そこでアメリカ連邦政府が国の信用を以て補償を約束する。これは異なる国の博物館同士で文物を貸借する際に考慮される重要なポイントでもある。

申請を受けた連邦政府は、標準から評価して、一部の展示品のみ適用し、他は商業保険をかけたと見られる。今回は国家補償制度が適用されたことで、国立故宮博物院は貴重なコレクションの貸し出しに同意したのである。

アジア美術館はサンフランシスコのシティホールの真向かい、公共図書館の隣に位置する。その堂々たる外観に、今年5月から大きな垂れ幕で特別展が告知され、エントランスには台湾のアーティスト、洪易（ホンイ）の作品でアジア美術館が永久収蔵する「大福龍」が飾られた。

この作品は、あざやかな色彩で中国のトーテムと東方のモチーフが描かれ、毎日多くの市民や観光客が作品の前で写真を撮っていく。洪易の作品がアメリカの著名美術館で永久収蔵されたのは初めてである。

今回の展示品の半数以上はアメリカでは初めての展示であり、30点余りは門外不出の国宝である。台湾とアメリカの両館の努力によって今回の文化交流が実現した。

アジア美術館での特別展

アジア美術館のジェイ･シュー館長は、故宮博物院との縁を語ってくれた。

アジア美術館は1966年、シカゴの企業家アベリー・ブランデージ氏から7000点余りのコレクションの寄贈を受けて設立された。ブランデージ氏が中華の美術品に興味を抱いたのは、1935年に国民政府が紫禁城のコレクションをロンドンへ送り、ロイヤル･アカデミー･オブ･アーツで展示されたことがきっかけだという。

後に、ブランデージ氏は台湾の霧峰も訪れた。当時、故宮の文物は北溝山に掘られた洞窟に保管されており、当時の葉公超･外交部長に伴われてそれらを見学したことからも、氏の故宮文物への思い入れが分かるというものだ。現在、その美術館で故宮の美術品が展示されるということには特別の意義がある。

シュー館長は、30余年にわたって美術館での経験を積んできた。プリンストン大学で中国古代美術の修士･博士の学位を取得し、上海博物館やメトロポリタン美術館、シアトル美術館、シカゴ美術館などに勤務してきた。

特別展開幕記者会見の当日、シュー館長は故宮の何傳馨副院長とともに世界各地から来た記者を中国語と英語で案内した。西洋メディアに展示品を理解してもらうため、シュー館長はさまざまな物語を引用して紹介した。個人的に最も期待している展示品は、と問うと、それは長い時間をかけなければ話しきれないと答えた。

アジア美術館のジェイ･シュー館長は故宮コレクションに造詣が深く、6年をかけて特別展実現に奔走してきた。

帝王の肖像

ジェイ･シュー館長が高く評価する美術品は、宋徽宗の筆になる「怪石詩」である。徽宗が痩金体で書いた自作の詩で、帝王の哲学と道教の哲理が表現されている。「この書から徽宗の思想や文学、芸術の造詣が見て取れます。徽宗という人を理解するための肖像とも言えます」と館長は語る。

このほかに館長は、北宋･汝窯の青磁紙槌瓶と明･成化窯の闘彩鶏缸杯（同様の一点は2014年4月、香港のサザビーズのオークションで10.8億台湾ドルで落札された）を挙げる。雍正帝の時期に造られた木彫嵌琺瑯掛屏の「戒急用忍」という自戒の文字は、治国における皇帝の苦悩を表しており、これも皇帝の肖像と言えると言う。

自ら州知事を案内した館長は、「知事も、帝王の肖像という概念に興味を示してくださいました」と言う。皇帝は権威の象徴であり、その真の姿を知ることはできないが、彼らが作った詩やコレクション、碑銘などからその思想や人柄がしのべるのである。

初めてアメリカで展示されることとなった故宮の至宝「肉形石」は、誰にでも分かりやすい感動的な文物である。

アジア美術館はサンフランシスコ・ベイエリアのレストラン13軒と協力し、「肉形石」の展示に合わせて東坡肉（豚の角煮）を提供する。

「肉形石」を見て食べる

展覧会の期間中、アジア美術館ではベイエリアのレストラン13軒と協力し、東坡肉（豚の角煮）の創作料理を提供する。また東坡肉のレシピをビデオにして中華料理も広めていく。

「サンフランシスコでは食が共通の話題なので、東坡肉を見て、作って、食べてもらいたいと考えています。そして天然の石の色彩や肌理を活かして豚の角煮と見紛う作品を創り上げた技を見ていただきます。これはマスコミからも注目されています」と言う。

100点余りの宮廷の宝物はアジア美術館の1階の四つの展示室に陳列された。内装や動線も新たにデザインされ、西太后の写真など、それぞれの時代とつながる写真も展示される。中華文化に触れることの少ない見学者でも、皇帝のプライベート空間をイメージできるように配慮した。展示品にはすべて中国語と英語の標示があり、音声ガイドの中国語と英語もシュー館長の声だ。

自らサンフランシスコに赴いた故宮の何傳馨副院長は次のように語っている。「故宮の文物は1935年に初めてロンドンで展示され、当時の人々に中国美術への憧憬の念を抱かせました。1960年代には初めて米国五大都市で展示され、海外で中国芸術史を研究する学者に多大な影響を及ぼしました。ジェイ･シュー館長もその一人です。今回の展示は、さらに若い世代に影響を及ぼし、より多くの方々に台湾の故宮に足を運んでいただきたいと考えています」