最短時間で地震をスキャン
ユーラシアプレートとフィリピン海プレートが交わる地震帯上にある台湾は、世界でも有数の地震活動の活発な地域である。そこで小さな島国でありながら700の地震観測点、109のリアルタイムで情報を送れる強震動観測拠点が点在し、その密度は世界一を誇る。しかも、最近ではコンピュータとネット通信網のグレードアップが進み、わが国の地震速報システムのデータ分析は大幅に改善された。
「地震速報システムは、地震波との競争なのです」と、郭鎧紋主任は話す。強い地震で瞬時に破壊される震源地付近は被害を避けられないが、震源地から離れた地域では地震速報システムが警報を送り、破壊的な地震波が来る前の数秒に緊急措置を取れるかもしれないのである。
地震観測センターではこれまでも陸地に観測地点を密に設置してきたが、今後は日本に倣って周辺の海域にもケーブルの海底地震システムを設置していく計画だ。
郭主任によると、台湾の地震の70％が東部の外海で発生しているので、海底ケーブルシステムはその地震観測に有効という。2010年下半期には、最初の海底地震観測システムが東北海域に設置され、この地域の地震速報が10数秒短縮できる。
地震速報システムは、災害時にどんな機能を果すのであろうか。気象局の辛在勤副局長は、鉄道輸送を例に説明する。台湾大地震がもう一度昼間に発生すると、現在の平均35秒の速報では震源に近い新竹、台中、彰化、雲林では鉄道の線路が変形し、列車が転覆する光景を目の当りにしなければならないだろう。しかし、離れた桃園、台南に貴重な地震情報が即時に伝えられれば、列車は適時に停車して被害の大きな地域に入り込まずに済み、脱線事故を避けられるし、乗客の避難にも役立つことであろう。
速報から警報へ
地震速報システムはリアルタイムでデータを提供できるが、最短の時間で情報を公共施設や人の出入りする地域、あるいは一人一人の手に届けて、緊急の時に数秒から数十秒の時間を利用して避難するようにできるかが、最大のポイントとなる。
「現在の速報システムを使って、より完備した警報システムを構築するのが今後の努力目標です」と、国家防災センターの陳亮全主任は言う。
たとえば台湾大地震で、地震波が震源の南投から台北に到達するまで44秒前後かかっている。そのデータを地震で崩壊した新荘市のマンション「博士的家」や台北市の東興マンションの住民にリアルタイムに伝え、避難を促せたら、生埋めになる悲劇を免れられたかもしれない。
同じく地震帯にある日本では昨年10月より世界初の緊急地震速報システムの運用を開始した。官民のブロードバンド、通信、放送が協力し、地震速報を最短時間内に光ケーブルネットで政府機関や原発、水道電気及び交通機関、橋梁、病院、テレビ局、大企業、デパート、ショッピングセンターなど人の集まる場所に伝え、携帯にも送信する。
今年6月中旬、マグニチュード7.2の岩手宮城内陸地震が発生し、緊急地震速報が初めて機能した。100キロ離れた仙台では、地震波到達の5秒前に地下鉄の自動列車停止装置が作動して走行中の11列車が減速し、被害を食い止めた。震源から500キロの東京では、人が揺れを感じる10数秒前にNHKの画面に地震警報を出すことができたのである。
現在、災害防止センターでも日本の経験に学んで気象局やその他民間と協力し、台湾向けの地震警報システムを構築しており、早ければ今年末に基本計画が出ると陳主任は話す。
しかし、台湾の地理環境や一般の認識は日本とは大きく異なる。たとえば日本の国土は台湾の11倍で、地震波が届くまでの時間が長く、速報が意味する時間の長さが異なる。また地震に対する一般の認知度が行き渡り、警報の誤差に対する許容度も高い。
実のところ、緊急地震速報の精度は68％に過ぎず、多くの地域で震度の計算が不正確であったり、地震波が到達してから警報が出たりなど、かなりの誤差が発生している。同じことが台湾で発生したら、地震警報で一般のパニックが起きるか、マスコミの袋叩きにあうだろう。
警報システムには、政府から国民の一人一人まで防災や避難訓練を徹底する必要があり、そういったシステムがないと市民のパニックを招くだけで、時間は稼げても、その最大の効果を上げられないのである。
それでは台湾ではいつになったら国情にあった地震警報システムを構築できるのであろうか。気象局の辛在勤副局長は、狭い台湾で警報の時間をすぐに短縮するために、防空警報のやり方を取り入れられないかと提案する。震度5以上の地震波が到達する前に、スピーカーで市内に警報を発し、避難を促すのである。これなら今でも簡単に行なえて、しかも地震の被害を効果的に抑えられる。
今日の科学をもってしても、地震の発生を確実に予測するにはまだ距離がある。そこで地震発生後に少しでも避難できる時間を確保するのが、努力目標なのである。地震の頻発する島国の民として、今はこれに全力を上げるしかないのである。
