素晴らしい台湾の学術環境
「この場所は宇宙の混沌と生命の起源を表現しています」とPaganisさんは宇宙館のレジャー空間の天井を指差して目を輝かせる。彼は1999年にテキサス大学オースティン校で素粒子物理学の博士号を取得した後、コロンビア大学とウィスコンシン大学マディソン校で研究を続けた。2005年からはイギリスのシェフィールド大学で講師から教授まで務め、十年にわたる教育と研究を通して学術的にも実績を上げてきた。
「台湾の学術研究環境は非常に優れています」と語る彼は、2014年に妻の故郷である台湾に移住することを決めた。そして国立台湾大学物理学科で教鞭を執ると同時に、学内に新たに設立された「素粒子物理および天体素粒子物理学」小委員会(PPPA)の責任者となった。
Paganisさんは、天文数学ビルの実験室内にあるハイテク精密機器を指差してこう話す。「『神の粒子』と呼ばれるヒッグス粒子は、2012年に欧州原子核研究機構(CERN)が、これと似た機器で発見しました」これは物理学界では極めて重要な発見だった。研究に参加するチーム(中央研究院、台湾大学、中央大学、成功大学など)の努力の下、政府科技部から助成金を得て、台湾初の同類の検出器を構築し、部品もすべて台湾で製造した。この「台湾シリコン検出設備(Taiwan Silicon Detector Facility, TSiDF)」は2019年3月から正式に使用が始まり、今年1月には科技部主導の下、参加する研究チームを結集して、台湾高エネルギー物理聯合実験室(Taiwan Instrumentation and Detector Consortium, TIDC)を発足した。
多数の国の科学者が、TSiDFの視察に訪れて高く評価した。日本の理化学研究所、アメリカのブルックヘブン国立研究所(BNL)やマサチューセッツ工科大学などから訪れた20名の科学者がTSiDFを高く評価し、アメリカのブルックヘブン国立研究所によるsPHENIX実験の追跡装置の生産基地とすることが提案された。
プロジェクトの発起人であるPaganisさんは、台湾チームは世界で最も優れた実験チームと称えられていると言う。欧州原子核研究機構(CERN)が行なうコンパクトミュー粒子ソレノイド(CMS)実験において、次世代型熱量粒子検出器の生産基地に指定され、将来的には5000個のセンサーモジュールを提供する。しかも、検出器の核心部品の製造はすべて台湾で行われる。これは台湾の科学技術史においても大きな栄誉であり、台湾チーム全体の功労と言える。
2003年、PaganisさんはスイスにあるCERN本部でトロイド型LHC用実験装置(ATLAS)を用いた実験に参加した。2014年にはCMS実験に加わり、高粒状性カロリメータ(HGCAL)プロジェクト委員会の副委員長に就任した。世界の60余りの学術機構が参加する計画で、彼がこの地位についたことで、台湾の学界および産業と世界との懸け橋となることは間違いない。
6インチのHGCAL検出器モジュールを手にPaganisさん(左)と話し合う研究生。