「万巻の書を読み、万里の道を行く」と言う。「万般皆下品、唯有読書高(読書のみが高尚で、それ以外はすべて低俗である)」と言われた時代、「万巻の書」と「万里の道」を平等に位置づけたのはかなり進んだ考えだったに違いない。
21世紀の今日、教育の思考は大きく変わったが、この言葉の意義は失われていないどころか、ネット世代の今の若者の新たな学習指標となっている。教師も親も、子供たちには外の世界へ出て行って多くの経験をするように勧めており、そのため海外遊学のルートも増えている。交換留学で海外へ行く生徒も増えており、その年齢も下がりつつある。大学に入る前の高校生が、まず一年間海外で過ごして多様な学習環境を経験し、国際感覚を身につければ、その後の学習にも役立つことだろう。
世界では毎年8000人余りの青少年が、国際ロータリーの交換学生計画に参加して海外留学している。この制度はすでに90年以上続いており、台湾も参加国の一つだ。華語圏での主な参加国は台湾であるため、中国語を学びたいという欧米からの学生は台湾を留学先の第一志望に選ぶ。台湾の多くの高校も交換留学生の受け入れに積極的で、台北市立南港高校もこのプランに参加している。
南港高校は、外国からの交換学生が台湾文化を体験できる機会を多数設けており、特に芸術文化関係のカリキュラムでは、国立台湾芸術大学書画芸術学科の蔡明龍先生を招き、2学期にわたって書画芸術課程を開いている。毛筆、詩作、絵画などを通して中華文化の素晴らしさに触れてもらおうというのである。
文化体験は毛筆から始まる
毎週木曜日の午後、フランス、ドイツ、イタリア、ブラジル、アメリカ、メキシコ、タイ、日本などから交換留学で来ている15人の生徒が、南港高校の図書資料教室に集まる。学校が彼らのために設けた文化体験カリキュラムが始まる。明るく活発な生徒たちで、教室は活気に満ちている。
毛筆を手にしたことがない生徒に興味を持たせるために、蔡明龍先生はインタラクティブな体験授業を試みる。中国伝統の書の他に、水墨画や灯篭の絵入れ、扇子作りなどだ。また、毛筆で台湾詩を書かせ、その詩に歌われた物語と台湾の伝統風俗などを聞かせて興味を持ってもらう。
「これらの生徒たちが書法や水墨画に触れることは一生に何回もないでしょうから、じっくり体験させています。授業では自分の作品も作って印象を深めてもらい、その経験を母国に持ち帰ってもらいたいと思っています」と蔡明龍先生は言う。初めての時は何事も難しいので、彼は活発な外国人生徒のためにさまざまな工夫をしている。まず、どの国から来た生徒にも、台湾の子供と同じように「永字八法」つまり「永」の字を書いて八つの筆法を練習させる。そして、少しずつおもしろさを感じてきたら、水墨画など他のカリキュラムを加える。また授業中は中国語以外は使ってはならないことにしている。
学校の外で台湾文化を体験
書法の授業の他に、台湾の重要な祝祭日などがあると、学校は生徒たちの意見を聞いて戸外でも台湾の多様な文化を体験してもらう。故宮博物院や国立歴史博物館を見学したり、清明節には潤餅(台湾風生春巻き)、端午節には匂い袋を作り、元宵節には平渓に行って天灯を上げるなど、どれも楽しく、台湾を理解するのに役立つ。これらのカリキュラムを通して生徒は先生と友人のような関係になる。「自由な学風の中で育った外国人生徒ですが、台湾文化を学んだことで、私たちの授業方法や教師を尊重するようになりました。授業で作った自分の作品に満足し、早く母国にいる両親に送りたいという生徒もいます」
交換留学生の指導を担当する台北市立南港高校の呉惠琪組長によると、交換留学生の大部分は台湾に来るまで中国語を学んだことはないが、学期が始まるとすぐに一般の学級に入ってもらっているという。そして外国人がクラスメートになると、台湾人生徒に少なからずカルチャーショックをもたらす。
呉惠琪先生によると、生徒間の交流は言語から始まり、最初は台湾人生徒が英語で彼らとコミュニケーションをとるが、外国から来た生徒はすぐに中国語を覚えるという。「生徒が自分で興味を持って学ぼうという気持ちさえあれば、一学期でかなり中国語が話せるようになります。通常の授業の他に、私たちは蔡明龍先生に文化の授業をお願いし、また開南商工と一緒に先生に来ていただいています。内湖工業高校では太極拳の授業をしているので、それらの資源を共有しており、交換留学生には多様な文化に触れてもらえるよう工夫しています」と言う。
中国語を学び、台湾を好きになる
アメリカから来たブリアナ・ボーランドさんは、一学期にわたって工筆画(細密画)を学び、驚くほど精巧な作品を描けるようになった。台湾を留学先に選んだのは、アメリカに留学していた台湾人生徒がとても感じがよく、彼女たちに勧められたからだという。台湾に来るまでは中国語をまったく知らなかったが、今では流暢に記者の質問にも答えられる。「初めて毛筆で絵を描いた時は本当に難しくて、忍耐が要りましたが、充実感がありました。早く自分の作品をアメリカにいる両親に見せたいし、書法と水墨画について話してあげたいです」
フランスから来たニーナ・フォイトさんは、台湾に来る前に2年間中国語を学んでおり、今は流暢に話せるだけでなく、中国語の本も読めるし、最新の流行語も使いこなす。書法は得意ではないが、こうした中華文化に触れる機会を学校が作ってくれたことに感謝していると言い、自分の作品はさっそくフランスの家族に送ったそうだ。台湾の一番好きなところはと聞くと、「制服が好きです。台湾の高校の制服はかわいいです。フランスでは制服を着たことがなくて、チェックのプリーツスカートをはけるのがうれしいです。毎日制服を着ていたいぐらい」と言う。明るくて活発なニーナさんは、同級生とも非常に仲が良い。ニーナさんとブリアナさんは、それぞれ母国に帰って大学を卒業したら、台湾の大学院に進むことも考えている。二人によると、中国語ができれば卒業後の就職に非常に有利なのである。
生徒たちの展覧会
文化体験のカリキュラムはすでに3年目に入った。蔡明龍先生は交換留学生の作品にはユニークなものが多いことに気付き、また東西文化のぶつかり合いによるおもしろい創意もあるので、これらの作品を多くの人に見てもらえば、国際文化交流になると考え、南港高校と開南商工の2校で合同展覧会を開くことにした。学校と先生方の熱心な協力を得て、生徒たちは展覧会の企画にも自ら携わり、彼らの台湾文化体験カリキュラムに一つの記録を残した。
現在は新北市板橋の435芸文特区で展覧会が開かれている。彼らの書法の作品を見ると、ドイツ人生徒は「私は一日中ビールばかり飲んでいるわけではありません」と書いており、メキシコから来た生徒は「私は麻薬の密売人ではないし、武器も使えない」、フランスから来た生徒は「フランスはエッフェル塔だけではない」「私はフランス人だけど、カタツムリは食べません」などと書いてあり、ユニークなイラストも描き込まれている。これらはすべて、一般の台湾人が彼らの母国に対して抱くステレオタイプのイメージを否定したものだ。台湾に対する思いを書いたものもある。会場では見学者に自分たちの台湾での経験を語ることもあり、展覧会場全体が国際文化交流の場となっている。ドイツから来た高校生は、台湾を交換留学先に選んだのは、中国語が学べて台湾文化に触れられるし、厳格な授業方法もドイツのそれと似ているので、親しみやすさを感じたからだと語った。
インタラクティブな文化カリキュラムと楽しい展覧会を通して、交換留学生たちは台湾の文化を知り、人情にも触れることができた。学校と先生のきめ細かな手配で、生徒たちの心の中に文化の種がまかれている。いつの日か、これらの種が世界各地で芸術文化の芽を出し、世界のより多くの人に台湾を知ってもらえることだろう。
交換留学生は台湾で一年間学ぶ間に、書法も習う。毛筆を手にする姿もさまになっている。
詩の言葉の美しさに触れ、留学生たちは一歩進んで中華文化を理解し、文化的な視野を広げていく。
蔡明龍の文化のカリキュラムでは体験と創意を重視し、生徒たちを学校の外へ連れて行って台湾の多様な文化に触れさせている。
中国語を学びたいと考える外国人学生にとって台湾は最も人気のある留学先である。