型を破り、広い世界へ
「名刺は私を売り込むものです」立体の名刺は二つ折りで、オウムガイに見えるが、開いてみると宇宙のように見える。ペーパーアーティストとして鮮明な第一印象をあたえることができる。
より多くの人にペーパースカルプチャーに親しんでもらおうと、量産も始めた。専用のカッターがなくてもすぐに組み立てられるよう、抜き型で切り目を入れることにした。元宵節の干支のランタンにも長年にわたって彼の作品が採用されている。線が細かくて複雑なので、工場の社長には「かんべんしてくださいよ!」と言われ、以前はけんもほろろに断られていたが、洪新富の誠意が通じ、今では協力的だ。
洪新富は作品の真善美を追求しており、作品として収蔵されるものを作りたいと考えている。「あまりにも真に迫っているものも困りもの」と言うのは、学校での巡回展の時、本物そっくりの蚊の作品が、幾度も見学者にたたかれたからだ。主催者は慌てて「蚊をたたかないで」と貼り紙をしたほどだ。一作品に一年以上をかけた「軍武シリーズ」は米軍顧問団の注意を引いた。お金をかけて内外の図鑑を買い漁り、詳細に研究した成果なのである。
型にとらわれなければ次々とアイディアが浮かんでくる。積み木でも時計でも、身近なすべてのものに研究の価値がある。蚤の市へ行って不思議なものを見つけると、買ってきて分解しては組み立てなおす。また絵コンテのように動きを分析する。「一つの動作のために昼も夜もなく作業をし、3ヶ月もソファーで寝ることがあります」と言う。長年にわたって手で紙を切ってきたため、指は変形し痛むが、それでも初心は変わらず、作品作りを楽しんでいる。何もせずに成長する者はいない。苦労をいとわずに実力を高めてこそトップに立てるのである。