市場から地方を輝かせる
ひとつの市場の誕生には、地の利、物資の流通、人出などの要因がある。だが市場の建物が50年もたつとやはりさまざまな弊害が出て、そのために商業の中心地が他へ移り、人が集まらなくなる可能性もある。そこで、古い市場の改築が必要になってくる。建築物自体を新しくするだけでなく、地域の文化を見直すことにもなり、また地域の活性化、振興の任務も負うこととなる。
そのため、一流の建築士は市場のある地域の文化やランドスケープなどを積極的に設計に取り入れる。例えば改築中の台北南門市場は、市場であるだけでなく、歩道と屋内空間を一体化させた屋外広場があり、MRTとつながった地下があり、外の人の流れと呼応する屋外飲食エリアもある。いずれも、建築家が市場を放射状に市民生活とつなぎたいという強い意図が感じられる。
今年(2022年)9月に再オープンした台南市新化の果菜(青果)市場もそうした空間の一つだ。建物の建設には6億台湾ドルをかけ、ロッテルダムの市場Markthalを設計したオランダの建築事務所MVRDVと台湾の李麗如が共同で設計している。私たちは、台南市農産運銷公司の李芳林総経理とともに新旧の新化市場を訪れた。トタン屋根の古い市場の方は、夏は暑く、扇風機を回したり、水をまいたりしても放熱効果は限られている。新しい市場の建設現場へ行くと、天井が高い波型の緑の屋根がかかり、周辺の丘陵の景観とマッチしているだけでなく、屋内の温度を下げる効果がある。半露天の市場に立つと涼しい風が吹き抜ける。「二つの場所の気温差は6度になります」と自ら温度計を手に、李芳林は言う。新化は山地と平野が交わる交通の要衝にあり、新化青果市場は南台湾でも重要な果物の集散地となっている。
旧市場は空間的に狭く、施設も老朽化していたというのが移転の主な理由だ。李芳林は私たちを緑が見渡せる新市場の屋上に案内してくれ、市場の昔話をしてくれ、また将来の卸売市場と観光産業の融合についても語った。彼は近くの虎頭埤風景区や山上花園水道博物館、左鎮化石園区などの観光スポットを指さし、将来は市場の輸送販売、飲食、ショッピングなどの機能を活かし、市場周辺の各町村の観光の軸となることを願っていると語る。ここまで話を聞くと、設計する建築士と運営する経営者にとって、市場というのは地域発展という完全な計画の上に成り立つもので、その意義が極めて大きいことが分かる。
フードライターの韓良憶は「遊走在世界的市場裡(世界の市場を歩く)」の中で「異郷を訪れて最初にすることは、地元の人に市場の場所を聞くことだ」と述べているが、これにうなずく人も多いだろう。ランドマークとされる景勝地や有名な博物館や美術館を訪れるのではなく、多くの人が市場を好むのは、宝探しや買い物といった楽しみもあるが、市場からスタートすることでアウトサイダーからインサイダーへと立場を切り替えられるからだ。市場を訪れれば、よそから来た観光客も現地の暮らしに入り込むことができる。並べられた物産の中に四季の変化を感じ、地域発展の変化にも参画できるというものだ。こうして見てくると、観光客であれ地元の人であれ、変化した台湾の市場は時間を割いて行ってみる価値があると言えるのではないだろうか。
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温もりのある木の壁にグリーンウォールを配した林口市場もグリーンビルディングである。
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排気や換気を強化するほか、盧俊廷はそれぞれの店舗も新たに設計し、市場のイメージを一新した。
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改築後の中壢第一市場は、ガラスの壁面を通して外からも内部が見えるようになっている。2階の高さには大時計がかけられ、昔からの中壢市場の愛称に応えている。
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うねりのある緑の屋根が目を引く新化果菜(青果)市場は、台南の新たな観光スポットとなる。
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台南市農産運銷公司の李芳林総経理は、新しくなった新化果菜市場に大きな期待を寄せている。