早期発見、早期治療?
なぜ結核病は根絶できないのだろう。「早期発見、早期治療」は、あらゆる病気にとって最も有効な方法だ。だが結核について言えば、早期に正確に診断し、完全治療を施すことは、まさに困難を極める。
100年前に発明されたBCGワクチンが、現在もなお結核の予防に用いられている。台湾では先天性疾患と早産の場合を除き、乳児の98パーセントにBCGが接種されている。だがこのワクチンの効果は10年しか持続せず、しかも成人には効き目がない。つまりBCGによる保護期を過ぎてしまえば、誰でも結核に感染する可能性があるのだ。
興味深いことに、統計によれば結核病の発症率には男女差があり、男性は女性の約3倍に達するという。
衛生署桃園病院結核専門科の索任医師によると、35歳以前では男女差は大きくないが、その後年齢とともに差が開き、67歳では男女比3対1となる。ホルモンと関係があるとする説もあるが、現在のところ定説はない。
世代別で見ると高齢者の割合が最も高い。ほかの慢性病に罹患したり抵抗力が弱いためと考えられる。現在台湾で結核の疑いありと報告されている約1万9000の症例のうち、46パーセントが65歳以上である。
また、先住民の人々も肺結核の割合が高い。山間に暮らす先住民人口は全人口の1パーセントに過ぎないが、肺結核の報告例は3〜5パーセントに達する。ある統計によれば、山間地での結核発病率は、他地域の4倍、死亡率は6倍にも達するという。索任さんによれば、先住民に発病率と死亡率が高いのは、経済や教育、環境、生活様式、衛生習慣、また「医者にかかる習慣があるか、医者の言いつけをよく守るか」といった要素と関係があるという。
古くからあるとはいえ、結核の病理メカニズムはまだ明らかにされていない。例えば、感染しても発病しない人もいるが、その差はどこにあるのか、これも解明されていない。ただ、結核菌に感染しても普通はすぐ発病せず、菌は長く体内に潜伏し続ける。一般に、感染した人が一生のうちに発病する確率は10パーセントとされ、そのうち半分は感染後5年以内に発病、残りの半分はそれ以降に発病する。発病しても治療を受けなかった場合、2分の1が5年以内に死亡する。また4分の1は、肺の中で結核菌が活動しないまま冬眠状態となり、何かきっかけがあれば活動を始める。そして残りの4分の1が、発病した状態で結核菌を伝染させる恐れのあるグループとなる。
明らかになっているのは、家族や同僚など、患者と近く接触する人の3分の1に感染するという事実だ。体内の菌が活動している患者1人が菌を感染させるのは年間に10〜15人ということだ。
潜伏期の非常に長いことが、早期発見を難しくさせている。たとえわずかな兆候が現れても、正確な診断は容易なことではない。
胸部レントゲン検査と喀痰検査が現在、肺結核の診断に使われる方法だ。だが、この二つにはいずれも盲点がある。つまり、レントゲン検査は正確に病巣を撮影できるとは限らない。また喀痰検査の方も同様で、五葉もある肺の中に桿状菌は百種類以上も存在するので、その中から結核菌をうまく採取できるとは限らないのだ。そのため、医者が専門的訓練を受けているか、豊富な経験を持つかが、大きな意味を持つ。
調査によれば、症状が現れて病院を訪れる時点で普通は2〜3ヶ月が過ぎており、その後、病院で正確な診断を受けて治療が始まるまでにさらに2〜3ヶ月かかるという。つまり一人の結核患者が発病から治療を受けるまで平均して半年かかるというわけで、これが菌の感染を最も防ぎにくい期間となる。
それに当然、その後の完全治癒も大きな難題である。
肺結核は不治の病ではない。一般に、2週間確実に服薬すれば伝染性は消え、さらにそれを6〜9ヶ月続ければ治癒する病気なのだ。
伝染性がなくなるまでは、入院しての隔離治療が必要である。今、台湾に結核治療の専門病院は一つしかない。それが台北市慢性病防治院だ。ここには17名を収容できる陰圧隔離病室があり、結核菌伝染性のある患者が治療を受けられる。
第一段階の治療が終了し、痰に菌の含まれないことが確認されれば、退院を許される。だが退院後も6〜9ヶ月間は毎日6〜7錠の薬を服用し続けなければならない。そのため肝臓を傷めたり、食欲減退などの副作用が出る人もいて、途中で服用をやめてしまう人も多い。
治療が不完全に終わった場合、ある深刻な後遺症を引き起こす。それが薬剤耐性結核菌の出現だ。そしてこれこそが、肺結核予防治療において最も困難な問題となっている。台北市慢性病防治院の呂喬洋院長によれば、患者の体内の菌がいったん薬剤に耐性を持つと慢性結核となり、伝染性を持ち続ける。そうなれば、患者自身の治療が困難になるだけでなく、その薬剤耐性菌が他の人に感染した場合、新たに感染した人も、同様に薬剤耐性結核菌を持つ、治癒の難しい結核患者となってしまうのである。
防癆協会(結核予防協会)が発行した結核予防切手。これは肺結核予防のための経費を集め、人々に注意を呼びかける目的で発行された。(防癆協会提供)