大地の香り――アカシアビール
フルーツ、中薬、茶など、台湾人にとって馴染み深い材料がビールに加えられるなら、樹木のアカシアはどうだろう。
新竹にある高森興業の工場を訪ねると、まず目に入るのは、2階建てほどの高さまで積み上げられたアカシアの原木だ。伐採から木材加工までの工程を行なうこの工場では、段ボール箱や特注の緩衝材、建材や家具も生産している。
段ボール箱の収益だけで会社経営は成り立つが、総経理の陳昱成はこれで満足はしておらず、国産の木材をどこまで応用できるかを追求している。こうした考えから、2014年に「蛋牌(the egg)」というブランドを打ち出した。
「蛋牌」は一般の木材メーカーとは異なる道を探し求め、木材に新たな生命を吹き込もうとしている。例えば、浴槽、家具、楽器、床板の他に、カップやスポーツ用品なども打ち出している。では、木材をビールに応用するというアイディアはどこから生まれたのだろうか。「アカシア材を切っている時、刃先と木材の摩擦によって、ある種の香りが生じるのです。この香りを何かに生かせないかというところから、酒への応用を思いつきました」と話すのはブランドマネージャーの孫啓豪だ。
その話によると、最初に思いついたのはウイスキーだった。だがウイスキーは、木樽での熟成に何年もかかるため、ビールの醸造を考えるようになった。
ビール醸造の設備も知識も持たない彼らは、ようやく新竹のブルワリーと協力できるようになり、このアイディアの実現に取り組み始めたが、一つの問題につきあたった。
試験の初期、アカシアが炭化した香りを残すために彼らは焼いた木材をそのまま使ったのだが、発酵槽に入れると活性炭効果が生じ、麦の香りがするビールが、透明で無味の液体に変わってしまったのである。「飲んでみると、まるでアルコールを加えた水のようでした」と孫啓豪は笑うが、それでも彼らはあきらめなかった。
こうして一年にわたる研究開発が続き、2019年末に、ついにアカシアビールシリーズ「初相思」「酔相思」「忘相思」が誕生した。それぞれにアルコール度数が違い、興味深いことにそれぞれに異なる客層がついている。アルコール度数3%の「初相思」は口当たりがさっぱりしているので女性に人気がある。度数7%の「酔相思」と9.9%の「忘相思」は男性とクラフトビールファンに好まれている。だが、どの消費者も木の香りがすることに驚くという。
黄金色のビールの中に焼いてできた炭化層を入れて45日発酵させると、液体に木の香りが移り、内部の原木の深みのある味わいが加わる。こうして蛋牌は国産の木材産業に新たな方向をもたらし、また台湾のクラフトビール産業に、もう一つの台湾の味わいを提供したのである。
この土地では、まだまだ多くのブルワーが「台湾風味」のクラフトビールを生み出すために努力を続けている。まずはさまざまなクラフトビールを少しずつ味わってみてはどうだろう。すべて気に入るとは限らないが、台湾の風土は確かに感じることができるだろう。
ビールと中薬(生薬)と砂糖漬けキンカンを合わせた「蘭城旧味」シリーズ。吉姆老爹(J&D)は、このほかにも米や茶葉などを使った台湾風味のビールを打ち出している。
季節の変化を取り入れた啤酒頭の24節気シリーズ。風味やアルコール度数がそれぞれ異なり、ビールは夏のものというイメージを変えた。
酉鬼啤酒(Ugly Half Beer)は工場の外観からロゴデザインまで、同社の活発でユニークなスタイルが表れている。
ブルワーの劉書維は大学卒業後に吉姆老爹に就職し、専門知識を活かして宜蘭のローカル素材を使った酒を多数生み出している。
バーに行く機会があったらクラフトビールを注文し、台湾の原料を使った独特の風味を味わってみてはいかがだろう。
木製の樽を積んだ造酒所の一角。市場で人気のある木樽熟成ビールがここで作られている。
高森興業の陳昱成総経理は、会社を設立して数十年、国産木材のさまざまな用途を見出してきた。
蛋牌(The Egg)はアカシアをビールに加えることに成功し、樹木の香りがするビールを生み出した。