「南向」から「転進」へ
ベトナムで台湾の中小企業は成功しており、7割の成功率は大陸におけるそれに劣らない。
「2年前から新たなベトナム投資ブームが起きているのは明らかです」と駐ホーチミン台北経済文化弁事処の陳杉林処長は言う。今回のブームは中国大陸と関係している。中国では現地企業が急激に力をつけており、台湾企業の空間が狭まっているのである。また、靴、自転車、省エネ電球などがEUから反ダンピング税をかけられ、人件費が上昇(2005年の広東省東莞;の最低賃金は570人民元で前年より3割上昇)するなど不利な条件が重なり、多くの台湾企業はリスク分散のためにベトナムに向い始めたのである。
さらにここ数年は中国も環境保護を強調し始め、高エネルギー消費、高汚染の産業を西部へ移転する考えでいるため、台湾企業は新しい投資先を探してきた。今年2月、対外貿易協会が主催したベトナム視察団128人のうち、8割はすでに大陸に工場を持っている従来型産業だった。
今年初めにベトナムがWTOに加盟したことで、大企業の投資意欲も高まった。台湾IT大手の鴻海、ASUS、Compalなども次々と進出を決めている。
鴻海グループは50億米ドルの投資を計画しており、7月初旬にビンディン省人民委員会と備忘録を交わした。まずビンディン省人民委員会経済特区に10億米ドルを投じて700ヘクタールの工業区と300ヘクタールのサービス総合区、それに50ヘクタールの住宅区を建設する。この投資計画に対して、ビンディン省は15年間、営利事業所得税を下げて10%とし、収益が出始めてからの4年間は所得税を免除する。
Compalはハノイのあるヴィンフック省に3000万米ドルをかけて工場を建設する予定だ。
Compal投資人関係処の張志明マネージャーによると、中国江蘇省崑山にある同社の工場は3工場に2万人が働いているが、すでに飽和状態で、海外の顧客からはリスク分散の要求もあり、他に生産基地を設ける必要が出ている。ベトナムを選んだのは原価を考慮してのことだ。
「ノートPC市場は急成長し、シェアも上っていますが、価格は下がっているのでコストダウンが重要な課題になっています」と張さんは言う。ベトナム政府からは当初4年は免税、その後9年間は税半減という優遇条件を得ている。それが大きな誘引となって8月の取締役会でこの投資案は承認され、用地が決まればすぐに着工する予定だ。
IT大手のベトナム進出に対して、台湾貿易センター駐ホーチミン弁事処の侯文欽処長は、ベトナムはインフラが不十分で重工業も発達しておらず、電子関係の人材も極めて不足していると注意を促す。現在は部品を輸入してアセンブリをするしかないのである。インテルのマイクロプロセッサも、ベトナムでは半製品を輸入して封止するだけだ。ベトナムでは一般労力は豊富だが、専門の人材が不足しているからである。
「ハイテク人材は海外から帰国したベトナム人に頼るほかありません」と話すのは東元(TECO)グループの蔡文生副総経理だ。同社では30〜40代の帰国人材を頼りにしているが、育成にはまだ時間がかかると言う。