開墾の重労働
1990年代に客家による「母語を返せ」という社会運動が起り、そこから客家文化の復興が大きな流れになった。その中で、客家料理も文化の重要な象徴として考察の対象となった。
多くの研究者が客家料理の特色として、塩味が濃く、香りが強く、油っこい、という点を挙げる。調理方法は、蒸す、煮る、炒めるが中心で、また塩漬けの技術に優れ、その種類も多い。これらの特色は、客家の先人たちの移住の歴史や生活環境と深く関わっている。
客家の祖先はもともとは中国大陸の黄河や江淮の流域に暮らしていたが、天災や戦乱を逃れて唐末、五代、南北宋の時代から移住を開始し、福建、広東、江西などへと移り住んだ。移住先の平坦な土地はすでに他の民族に開発されており、遅れてやってきた彼らは山地や丘陵に集落を作るしかなかった。
山地や丘陵の開墾は重労働で、汗で失った塩分を補給し、体力をつけるために、料理に塩や油を多く使うようになったとされる。客家の間では、元気のない人を「塩を食べていない」と形容する。
また山地は他の地域との交通が不便で物資も乏しいため、食物を長期保存する塩漬けの技術が発達した。大量に採れる旬の野菜を天日に干して塩に漬ける。例えば、鹹菜、覆菜(福菜)、梅乾菜はカラシナの塩漬けの三段階の状態で、古漬けになるほど味わい深い。また、料理に時間をかけられないため、調理方法はシンプルで、燻製や揚げ物は少なく、蒸す、煮る、炒めるといった方法が多い。余った肉は粕漬けなどにする。
国立高雄餐旅大学中華調理師学科の楊昭景教授によると、客家の典型的料理は「四炆四炒」(炆はとろ火で煮込むこと)と言われる。漬物と豚の胃袋の煮込み、スペアリブと大根の煮込み、豚の腸とシナチクの煮込み、豚の大腸のショウガ炒め、豚の胃袋のニラ炒め、豚の肺のパイナップル炒めなど、一頭の豚を内臓から血まですべて使い切る。スープに入れたシナチクは油を吸ってスープはさっぱり飲め、シナチクの渋みも消える。あらゆる食材の特徴を有効に活かしている。民族学者の荘英章は、客家の漬物技術を「比較的不安定な生態環境における適応策」と言う。
近年、客家集落は次々と観光産業へと転換し、文化や歴史を感じさせる客家料理レストランも増えてきた。写真は北埔食堂。