風土と農家重視
「おいしいビールを作るのは実は簡単で、材料と方法に従えばいい。でも私は高い技術を学びたいわけではありません」彼は、輸入に頼る大麦や小麦を使わず、台湾の粟とコーリャンを原料にしようと思った。奇抜さねらいではなく、農家の助けになればという発想だった。
「私の定義ではビールとは穀物内の澱粉と酵素を発酵させたもので、どの穀物でもおいしくできます」アフリカなど多くの熱帯地方では今でもコーリャンにトウモロコシなどを混ぜてビールを作っている。ドイツが「純麦」を主張するのは大麦の産地で、それに大麦は糖化効率がよく、麦汁も濾過しやすいからだ。が、やはりビールの伝統を持つベルギーでは、果物や香料などを加えることが多く、ここからも「ビールは風土に合わせるべき」なのがわかる。
「地元の味で生活の本質を取り戻す」というのがバーハムの夢だ。土壌や水の鉱物含有量、酵母の種類など、ビールの味を決めるものについて消費者の理解が深まれば、ビールへの思いも増すはずだと考える。
彼はすでに効率よい発芽と濾過方法を生み出し、発芽コーリャン50%と麦芽50%のビール醸造に成功した。次は更に難度が高く、おそらく史上初の「粟ビール」に挑戦だ。もちろん環境にやさしい保存技術も開発している。
台湾の金門コーリャン酒は早くから有名だが、長い歴史を持つ原住民の粟酒は忘れられがちだった。だがそれも、映画『海角七号』で扱われて注目が集まった。そして今、それらの原料がビールになり、新たな伝説を生もうとしている。
アメリカ人留学生のネイサン・バーハムさん(右)は、大同大学の段国仁教授(左)が設備の完備した実験室で「高コストの学習」をさせてくれたことに感謝している。段教授は「アメリカ人は自分の作ったビールを全部飲み干すはずですよ」と言う。