原住民文化における植物
展示「山野原味」でも多くの例が紹介されている。例えば原住民はゲッキツを解毒や腫れの抑制に使うし、タロコ族はクズの葉を止血に用いる。ルカイ族とパイワン族はクワズイモの葉で食物を包むだけでなく、細かくつぶして患部に当てて薬用にする。また日本の仁丹の原料の一つでもあるゲットウは台湾には18種あるが、そのうち12種が固有種で、原住民はそれらから器やゴザなどを作る。
カラムシ(苧麻)や、クバラン族の使うバナナの繊維といった、強靭でしなやかな植物は織物に使われる。『走山拉姆岸』でも、ブヌン族の女性が機織りをする習慣が紹介されている。カラムシを家に植える場合もあるが、川沿いで野生のカラムシを摘むこともある。摘んだその場で枝葉を除いて茎の皮をはがし、まとめて束にして背負って村に持ち帰る。そして皮をしごき、灰を加えて煮てから洗って干し、染色する。こうした技術は原住民族の大切な文化というだけでなく、地球にやさしく、サーキュラーエコノミー(循環経済)の考えにかなうものだ。
食農教育館では植物の紹介だけでなく、文章やイラストで、植物が原住民の暮らしとどのように関わっているかも紹介されている。
ヌルデの熟した実の表面には塩分があり、塩の代用品になる。またブヌン族はヌルデの幹を燃やして灰にし、硫黄と石灰を加えて猟銃用の火薬にする。一方、パイワン族の若者にとっては、求婚相手の親に自分の能力を証明する際、木質の柔らかいヌルデでなく、より硬いシマサルスベリを山から切って来なければならないとされている。
アオモジは、タイヤル族にとって先人の残してくれた大切な食材なので、アオモジを見かけると祖霊を偲ぶという。そこで村民同士でもめ事があると、長老は当事者にアオモジ水を飲ませる。双方は祖霊の教えを思い出し、冷静になるというわけだ。またアオモジには鎮静作用もあるとタイヤルの人々は信じている。
鍾秉宏は、展覧会を見て新たな角度から彼らの植物を知ってほしいと願い、山の植物とその芸術品も展示した。例えば、カラムシで織った網袋や、ジュズダマをつなげた首飾り、ゲルセミウム‧エレガンス(胡蔓藤)で編んだ帽子などだ。またパイワン族の鼻笛演奏家‧許坤仲が台湾固有種の「火広竹」(ホウライチクの仲間)を用いて作った鼻笛もある。笛にはパイワン貴族の象徴である百歩蛇と人の模様が刻まれている。
もう一点、半年かけて作られたのがサイシャット族の「臀鈴」(臀部につける鈴)だ。本来なら世襲されるものだが、展示企画チームが「今回は特別に」と頼み、「サイシャットの織女」と称される風順恩と何度も話し合って、ついに承諾を得て制作展示が決まった。しかもこれは伝統的な方法で、1粒1粒のジュズダマを竹とつないで完成させたものだ。
食農教育館を設立した台湾大学実験林管理処はかつてフィールドワークの際に、80歳を超えたブヌンの狩人リンカブ(霖卡夫)から「ブヌン伝統の『粟の豊作歌』がルルナ(羅娜)集落で失われようとしている」と聞いた。そこで実験林管理処の水里木工廠から30本のショウナンボクの木材をリンカブに贈った。リンカブはこの木材で異なる音色を出す杵を若者に作らせて演奏を教えた。すでにこの老ハンターは世を去ったが、実験林管理処との協力で伝統が受け継がれている。
食農教育館の周辺には、ブヌン集落や行楽スポットが多く点在する。近くの東埔で温泉に入ったり、桜の季節に望郷集落で花見をするなら、ぜひ食農教育館に寄り、原住民のよく使う植物を通して彼らの文化や精神を知ってほしいと、台湾大学実験林管理処は願っている。展示の最初にあったビデオでは、村の長老が子供にこう声をかけていた。「使うに足りる分だけでいいのだよ」と。山という大型冷蔵庫には、豊かな資源があるとはいえ、ほかの人や次の世代に残すことを忘れてはいけないのである。

パイワン族の伝統料理cinavuは、粟や豚肉をムラサキ科のトリコデスマ・カリコスムの葉で包んだものだ。

原住民族は粟の栽培を復活させることで、集落の文化と精神を取り戻した。(林格立撮影)

ブヌンの人々はジュズダマをセキショウの地下茎に通してネックレスを作り、お守りとして子供につけさせた。

食農館には原住民族の貴重な工芸品や、長老の言葉や神話物語も展示されている。

遠くに玉山を望むブヌンの望郷集落を訪れれば、原住民の植物の使い方や生活の知恵に触れることができる。