台湾工芸の父と称される物故画家・顔水龍はかつて、工芸品は美しく実用的で、使用者を満足させる必要があると語った。この三大要素で現在の工芸品レベルを採点すると、使用の必要性を満たしていても、美的価値は今一つといったところである。一般の人の生活と深くかかわる工芸品でもそうだが、道教の儀式や葬儀に用いて焼く糊紙(張り子)はさらにそうである。
糊紙とは、竹材を骨組みにして紙を貼って形を作り装飾した紙製の人形や様々な道具、器具である。現代の台湾では、宗教儀式や葬儀が簡略化され、人形や動物、家などの張り子は美的価値を失い、単に焼くだけのものとなってしまった。さらに機械生産の時代に入り、手作業で製作する張り子の職人は希少となり、台湾では完全手作りの張り子を見出すことは難しい。時代は変化し、習慣も変わり、糊紙工芸の姿も変わった。経済が発展した地域では特にこの傾向が著しく、伝統工芸の保存と継承が急務である。幸いなことに、現在でも張り子職人が伝統技法を守って製作を続けている。職人の多くは家業を継承しているが、中でも澎湖馬公の王家がその代表で、現在64歳の王旭昇が古法による糊紙を製作している。
国立馬公高校の美術教師で、澎湖文化局文化資産審議委員の王文良によると、澎湖に今も残る張り子職人の家は2~3軒だが、王家の技術が最も優れていて手作りを守っているという。しかも細部にまで行き届き、紙を折り揉んで変化を出し、表情も生き生きしている。
張り子に加えて、王家は木造王船(宗教儀式用の船)の技法も王旭昇の兄の王旭輝が継いでいる。王家の作る王船は、船体の造形も構造も澎湖の特色を保存し、台湾西南部沿海地方の王船とは異なる。王家兄弟の工芸技術は、物故した父・王宗田より受け継いだものである。兄弟は現在、文化部文化資産局にリストされ、二人が指導教官となった研修などで、王家の糊紙と王船工芸技術の伝承に努めている。
民間工芸は民俗文化を反映する。台湾の伝統的な民俗を知るには、古法を保存する民間工芸から始めることができる。