呼び覚まされる記憶
創業50年余りの明昌は台中沙鹿にある。沙鹿はかつてピーナッツ栽培の産地だった。産地に近いことから、沙鹿や彰化一帯には最盛期で数十軒の製油所がひしめいていた。張秉豪の祖父も、圧搾器具の修理を引き受けていたことから、製油所を開いた。
現在、製油所内には20近くの圧搾機器が並び、うち半数は二代目の張٦#宇が父から受け継いだものだ。その中でも最も目を引くのは、ごろごろと大きな音を立てる重さ1トンの石臼だ。
三代目の張秉豪によれば、ピーナッツは、煎り、挽き、蒸し、固め、圧搾の工程を経た後、さらに沈殿を待ち、瓶詰めされる。製油所も企業化し、多くが自動機で行われており、古くからの方法で圧搾する小規模な業者は少ない。
かつては牛が動力だった石臼も、今や機械で動かすが、ただ、石でひいたものは「やはり少し味が違います」と張秉豪は言う。長い年月の間にすり減ってきた石臼が挽き出す古風な味は、年配者の記憶を呼び覚ますのだろう。古くからの客は、明昌三代目に引き継がれた伝統製法が目当てでやってくる。自分の家で栽培したピーナッツを持ってくる客も、長年途絶えたことがない。
昔は、質の悪い材料を混ぜられるのを心配し、客は圧搾の現場で工程を見守っていたものだった。それがやがて農村の習慣となってしまったのだが、「じっと隣で見られているのですから、客が品質管理をしているようなもので、プレッシャーがありますよ」と張秉豪は言う。
ピーナッツ油の味を決めるカギは、ピーナッツの焙煎にある。30年余り前に張家に嫁ぎ、焙煎を受け持つ梁沛綸は、焙煎の加減は鼻に頼るのでなく、目で見定めると言う。高温で煎ると香りが出ないからだ。「ピーナッツの香りは、冷めてから出てきます」と言う。
明昌油商号の父・張閎宇(左)と息子・張秉豪(右)が力を合わせ、圧搾した後の鉄の枠を取り外す。