世代交代で新たな息吹を
「祖母は5歳頃に三脚戯(3人で演じる)を習い始め、10歳で大戯を演じました」幼い頃から舞台の下が遊び場だった鄭栄興は、自ずと伝統劇には詳しくなった。客家戯に限らず京劇でも歌仔戯でも台詞をスラスラ言える。曽永義教授の脚本による客家大戯「覇王虞姫」で、鄭栄興は歌仔戯、客家戯、京劇を合わせるという試みを行なった。果たしてこの新作は「第25回伝統及び芸術音楽金曲賞」最優秀伝統舞台芸術オーディオ・ビデオ出版賞を獲得した。中国伝統芸能を解釈し直しただけでなく、シェークスピアも取り入れた。「我々は伝統の中でのイノベーションを目指します」
俳優は劇の魂だ。その世代交代を鄭栄興は目指してきた。「客にこんなことを言われました。物語はすばらしいけれど、16歳の少女を演じる俳優がおばあさんではちょっと、と」伝統芸能は俳優の高齢化が深刻だ。「ベテランの優秀な俳優がいましたが、舞台で突然台詞を忘れて、それ以来舞台に上がらなくなりました」俳優の高齢化と後継者のいないことは差し迫った問題だった。「人材育成はうまくやれています」全演目で養成訓練が行われており、今や舞台の上でも舞台裏でも若い世代が目立つようになり、客家大戯に新しい息吹が感じられる。楽団と俳優、スタッフで総勢50名近いチームを作り、見事な成果を上げている。しかも鄭栄興は一般人や学生対象のコースにも力を入れており、さらに多くの人が台湾伝統の客家戯を理解し、好きになってくれればと願う。
「うちの俳優は毎年受賞しています」2014年『覇王虞姫』の江彦瑮、2015年『背叛』の陳芝后、2016年『婆媳風雲』の陳怡婷、2017年『六国封相-蘇秦』の蘇国慶、2018年『駝背漢與花姑娘』の陳思朋が、最優秀新人賞に輝いた。2019年の最優秀伝統舞台芸術オーディオ・ビデオ出版賞にノミネートされた客家大戯『戯夢情縁』では、そのアートディレクターである鄭栄興がさらに「最優秀アルバム・プロデューサー賞」「最優秀音楽設計賞」を獲得し、金曲賞伝統及び芸術音楽部門で大いに異彩を放った。
これらの栄光は支えにはなるが、生まれながらに背負った使命感は終始揺るがない。1994年の復興劇芸実験学校歌仔戯科の創立、国立台湾戯曲学院校長就任、客家戯曲学苑の創設と、鄭栄興は伝統劇の復興や保存に全力を注ぐ。
学苑の舞台衣装や楽器が増え続けても「金は使うためにある」と笑って言う鄭栄興だが、「海外公演は頭痛の種です」と嘆く。旅費がかさんで、チケットの収益ではまかなえないのだ。「同郷人の温かなサポートが、我々を前に歩ませてくれる力になります」熱烈なファンはすでに分かり合える友となり、鄭栄興が口に出さなくとも、金銭的な助けの手を差し伸べてくれる。「本当に感謝しています」こうした人々の名を心に刻み、期待に応えなければと自らを叱咤する。
高らかな楽団演奏とともに幕が上がり、こうこうと照らされた舞台が現れた。こうして栄興団の舞台は今後も伝承されていく。

『潜園風月』の登場人物は多い。男女の主役は林占梅と杜淑雅。

栄興劇団は次々と新作を発表している。伝統の客家オペラのテーマである忠孝節義の他に、時代に合わせたコミカルな内容もあり、いずれも高く評価されている。(鄭栄興提供)

栄興劇団は次々と新作を発表している。伝統の客家オペラのテーマである忠孝節義の他に、時代に合わせたコミカルな内容もあり、いずれも高く評価されている。(鄭栄興提供)

栄興劇団は次々と新作を発表している。伝統の客家オペラのテーマである忠孝節義の他に、時代に合わせたコミカルな内容もあり、いずれも高く評価されている。(鄭栄興提供)

『潜園風月』は音楽が魅力的なだけでなく、立ち回りの場面も見応えがある。

公演が終わると、観客はこぞって栄興劇団の役者たちと記念写真を撮る。

栄興劇団では公演のたびに、美しいパンフレットを用意する。

栄興劇団は衣装も手を抜かない。華麗であるだけでなく、時代背景や人物の身分も十分に考証する。写真は『潜園風月』、林占梅の第二夫人・林夫人。