新たな交通手段で古い時を訪ねる
水瓶子にとってMRTはタイムトンネルのようでもある。新しい交通手段を利用して歴史を訪ねることができるからである。水瓶子はMRT淡水信義線が好きで、これに乗ると昔の鉄道淡水線を思い出すと言う。
水瓶子は著書『台北捷運(MRT)散歩手帳(紅線)』の中でも、オリジナルの散歩ルートを読者に提供している。
他のMRTが地下を通るのと違い、文湖線は主に高架線を走り、大直駅から松山機場(空港)駅の間だけ地下にもぐる。この路線には動物園があり、猫空ゴンドラにも乗り換えられる。松山機場駅へと入る手前では飛行機の離着陸が見え、大湖公園駅を通過する際には海外でも知られている錦帯橋が見える。
台北MRTは5本の主幹線と2本の支線から成り、それぞれの沿線で異なる景観が楽しめるため、楊子葆は外国からの賓客に台北を理解してもらうための有効な手段としてMRTの旅を推薦している。特に台北市と新北市を南北につなぐ全長23.2キロの淡水信義線が気に入っていると言う。
台北駅を出発し、民権西路駅まで地下を通った後、車両は明るい地上へ出て高架線を走る。沿線には基隆河や淡水河が見え、関渡駅を過ぎると淡水河の河口の先に海が見えてくる。対岸には観音山を望み、山と海を同時に見渡せて気持ちも晴れ晴れする。余裕があれば文湖線も推薦する。ビルの間を通りぬけるルートからは、また全く異なる景観が楽しめ、大直の摩天楼や松山空港、台北101なども眺めることができる。
世界に地下鉄が生まれる発端となった漫画がある。かつて渋滞の深刻な英国で、ラッシュから逃れるために、人をチューブに押し込めてボタンを押すと、人が発射されて街を飛び越え、目的地に到着するという風刺漫画が描かれた。
その突拍子もないアイディアに多くの人が笑ったが、技術者たちは夢を現実のものとし、列車の軌道を地下に潜らせたり空中に持ち上げたりして今日の都市交通システムができたのである。楊子٨٦は、人が「飛び越える」イラストが今も頭の中に刻まれていると言う。
「高速鉄道が夢に満ちているとすれば、MRTの空間は人を現実に引き戻すものです」と言う。MRTの駅と駅の間は3分ほどの距離に過ぎず、乗客は夢を見る暇さえない。