悪条件の重なり
「環境の変化も状況を悪くしています」と蕭世民さんは言う。環境の変化で魚が弱って病気になりやすく、高密度の環境で急速に感染が広がる。そのため最近は室内養殖を勧める声が学術界から上がっている。室内なら温度や水質、ph値などが制御しやすいからだ。
蕭さんは、1〜4ヵ月の稚魚を屋内で養殖し、水質を管理しながら寄生虫やウィルスの侵入を防ぐという実験を1年続けた。すると稚魚の生存率が8割に高まった(一般に2寸の稚魚の生存率は3〜4割)。だが残念なことに、地元の養殖業者はあまり関心がなく、むしろ企業が投資に興味を示している。
「環境の悪化、ウィルスの蔓延、それに資金不足ときては、生産高倍増なんて無理」と、多くの地元業者が八八災害後のローン実施内容に不満をつのらせている。
李福成さんはこう説明する。八八災害後、養殖業者対象のローンは限度額が全国で20億元とされている。屏東県はハタ生産高が全国の3分の2を占めるのに、ローンの合計は7億に満たない。資金は必要だが、さまざまな制限があるので(養殖登記証や水利権証明の提出、公示地価に基づくなど)、ほかの魚に替えた方がいいと思うのだ。
とりわけ、ローンは養殖面積を基準とするので、稚魚養殖業者にとっては不利になる。佳冬で2寸の稚魚を育てる潘建章さんの場合、養殖場は300坪しかないが、1ヵ月に仕入れる稚魚は30〜50万匹に及ぶ。最近は稚魚の減少で価格が高騰し、仕入れ価格に300〜500万元かかる。ところが政府による現行の「1ヘクタールに500万元」というローンでは、50万元しか借りられない。「稚魚なしでどうやって倍増できますか」潘さんは、稚魚養殖対象の特別ローンを組んでもらわなければ今の危機は乗り越えられないと言う。
では将来を見据え、ハタ市場はどう歩むべきなのだろう。
持続可能な輸出経営
ECFA締結で、大陸市場に大きな期待を寄せる業者もいる。だが、大陸市場ばかりを頼めば、価格が大陸で決まってしまうと心配する人も多い。佳冬で養殖と運輸に従事する李炯頤さんは今後の業界担い手となる若き世代であるが、こう指摘する。北京オリンピックやアジア競技大会で観光客が増加しても大陸でのハタの消費量は期待するほど増えなかった。しかも大陸の物価は高騰し続けており、民間の消費力が本当にそれについていけるのだろうか。皆がこぞって経営を拡大し、もし順調に売れなかったら、値崩れを起して損失ははかりしれない。
魚類のウィルスの専門家である齊肖hさんはこう指摘する。ハタの輸出市場が小さ過ぎるのは、台湾の養殖業者が別々に孤軍奮闘し、技術統合が進まないという構造的問題のせいである。もし市場が大きければ、大量生産による値崩れは起こり得ず、技術面でも自ずと協力し合えるだろう、と。
一方、李炯頤さんはこう考える。肉好きな中国人に比べ、日本人は魚、特に活魚を好むので開拓の価値ある市場だ。政府は統括的な生産販売計画を立て、国際市場情報を提供するなど、新市場開拓の手助けをすべきだ。また、人気の高い魚だけを扱うのでなく、他の魚の輸出競争力も次第に身につけなくてはいけない。
健康への関心が高まり、肉よりも魚をという消費者が増えている。天然魚が減少する今日、海水養殖魚は低汚染や安定した品質という長所を持つ。まして優れた養殖技術を持つ台湾には将来性がある。八八災害を経た今、各界が協力して困難を乗り切り、ハタ王国を再建する、その意義は大きい。
世界のハタ生産量
|
2003 |
2004 |
2005 |
2006 |
2007 |
2008 |
中国 |
23,453 |
28,876 |
34,039 |
41,994 |
42,854 |
45,213 |
台湾 |
11,564 |
12,512 |
13,582 |
9,500 |
17,234 |
17,042 |
インドネシア |
8,665 |
6,552 |
6,883 |
3,132 |
6,370 |
4,268 |
マレーシア |
1,977 |
2,284 |
2,572 |
4,256 |
4,208 |
4,400 |
タイ |
2,338 |
3,574 |
2,582 |
3,036 |
1,028 |
918 |
香港 |
832 |
789 |
514 |
525 |
1,028 |
918 |
合計 |
49,471 |
55,008 |
60,837 |
63,048 |
75,406 |
75,727 |
単位:トン 資料:FAO国連食糧農業機関