遺伝子組換えと食糧不足
人口の増加に伴い(2050年に90億に達すると予測)、世界の半分の人口を支える米の需要が急増している。1965年の256万トンから2006年には600万トン、2020年には750万トンに達すると見込まれる。
人口が増加しているのに、工業汚染、砂漠化、潮汐の侵食や塩化土壌(肥料の堆積、海水の浸食など)により耕地は減少していて、食糧生産量が問題となる。そこで遺伝子組換えによる収穫量を上げコストを下げて、食糧問題を解決できると考えられた。
余淑美によると、収穫量の増大と病虫害耐性で、農薬と化学肥料の使用を減少させ、コストを下げられるという。1996年に遺伝子組換え作物の栽培が始まってから2004年まで、世界の農薬使用は14%、1725億トン減少した。
「病虫害への耐性は台湾では特に重要です」と、余淑美は話す。人口密度が高く、湿潤な亜熱帯気候では病虫害が多く、農薬使用量もアジアでトップクラスである。遺伝子組換えで耐性のある作物が普及すれば、この農業の問題が解決できる。
イネは遺伝子機能の解析のモデル作物で、機能の分かった遺伝子はイネやその他の穀物の改良に利用できる。作物の干害、寒害、塩害耐性を高めれば、これまで耕作できなかった海沿いの低地や寒冷な山地にも耕地面積を広げられる。
食糧だけではなく、遺伝子組換えでエネルギー問題の解決も期待される。
農作物の繊維質のバイオ燃料転換は理論的には可能だが、技術は確立されていない。
繊維質は鉄筋、木質はセメントのようにしっかり組み合わさって、植物はまっすぐ立っていられる。しかし、エネルギー生産にはこの組織が障害なのである。繊維質を分解しアルコールとするとき、強酸や高圧で組織を壊さなければならない。強酸は汚染源だし、高圧はエネルギーを大量に必要とし、環境保護にも経済的にも不適である。
それではエネルギー開発に向く作物は何なのだろうか。余淑美はイネ、ムギ、サトウキビを考えている。どれも種から茎、根まで利用できるのである。イネでは、食用となる米に加え、これまでは農業廃棄物とされ、燃やして大気汚染源となっていた稲藁でさえ、優秀な繊維質で将来のエネルギー源である。
突然変異によって葉の幅が広くなり、稲穂が棒状になり、丸い実が実った。