難しい根絶
被害地は拡大していないので成果が上がっていると、ヒアリ防止センター事務局長で、台湾大学昆虫学科の石正人教授は言う。ただし2006年初め、被害面積は1万ヘクタール前後だったが、被害の状況は改善されているわけではないと言う。繁殖速度が速すぎて、漸く50%減らしても、すぐに30%増えてしまうのである。
石教授によると、政府機関の分業の非効率が問題だという。政府の被害防止システムは、中央政府では各省庁それぞれが担当し、農業委員会が統括する。地方自治体では第一線の薬剤散布を行ない、ヒアリ防止センターはリソースと技術を提供し、また一般向けの指導教育、被害地のヒアリの数測定、拡散の監視も行っている。
地方自治体は農地の薬剤散布を行なうが、ヒアリは農地に限らず、工業用地や軍用地、学校、鉄道や道路、公園や道路の分離帯などに広がっている。ヒアリが一つの地域を越えると、別の政府機関の担当になる。上述の場所はそれぞれ経済部、国防部、教育部、交通部、環境保護署などの担当であるため、地方自治体は手を出せず、駆除の効果がなかなか上がらない。
現在、ヒアリ防止センターでは通報システムを確立し、発見した時に直ちに処理できるようにしているが、後手に回っている。先手を取って攻勢をかけるには、長期的かつ全面的な監視体制が必要である。
呉文哲教授によると、被害の深刻な桃園、台北、嘉義県では定期的に全面的調査が必要である。通常、人が入らない高速道路の両脇の斜面や空き地などは、ヒアリの潜む死角となる。こういった場所でヒアリは繁殖を続けるのだが、ヒアリ防止センターは7人体制で、予算は年にわずか1000万台湾ドルである。これで通報の処理、ホームページの管理、カウンセリングを行っており、実際に調査に当れるのは2人である。人手も経費も、まったく不足している。
オーストラリアの防止経験を例にとると、事務、経費、技術開発、薬剤散布などを統括して組織する600人編成の専門部署があり、予算は3年で約50億台湾ドルである。ヒアリが発見されると、ただちに人員を派遣して調査し、定期的に監視を続ける。防止機関のトップは省庁の次官クラスである。
呉文哲教授によると、台湾の各省庁は昆虫の専門家を欠いており、農業委員会の検疫局が統括して調整に当っている。「関係する省庁が多すぎて、農業委員会の調整にも力を振るえないのです」と、呉教授はヒアリ被害防止が浮き彫りにした外来種の有害生物駆除の難しさを訴える。発見されたヒアリを駆除するというだけではなく、いかにしてヒアリの侵入を防ぎ、台湾に入れないようにするのか、これも防止対策の重要な一環であるのだが、それには政府のトップレベルの高官が担当しないと、最初の10年の対策を有効に立てられない。いったん広がってしまうと、農業に100億台湾ドルに上る被害を与えたジャンボタニシや大量の樹木の枯死を招いたミカニア・ミクランサのように、台湾に根を下ろして駆除できなってしまうのである。