山林とともに
阿里山の資産は鉄道や蒸気機関車だけではない。「阿里山の魅力は、森林と鉄道技術、林業、産業、生活、文化芸術を総合したところにあります」と黄妙修は言う。「あらゆる有形無形のものが一緒になって、阿里山を唯一無二のものにしているのです」
今日でも、阿里山から拝む日の出は内外の観光客の記憶に残っており、毎日、夜明け前から観光客が祝山の展望台にやってきて日の出を待つ。小笠原展望台からは360度が見渡せ、雲海に浮かぶ玉山群峰を一望に収めることができる。春はサクラ、秋はイチョウやカエデの紅葉が楽しめ、夜の小笠原展望台は天体教室となる。また、厳しい試練に耐えてきた樹齢千年を超える神木群を愛でることもできる。
最近では、林務局は「森林セラピー」を打ち出し、阿里山はそのモデルエリアとなっている。台湾森林保健学会の副秘書長‧林家民によると、森林セラピーに参加して専門家の指導を受けながら五感で大自然を体験することで、不安や緊張や焦慮を軽減することができ、また生理的には心拍数や血圧も下がることが実証されているという。林家民は、参加者を率いて人の少ない水山登山道をゆっくりと歩きながら森林のフィトンチッドを吸収させる。日の出を観賞する人々が去った後も祝山や小笠原展望台に残り、山全体に抱かれている感覚と静けさを味わい、裸足で地面を踏み、水の音や鳥の鳴き声に耳を傾けて五感で大自然を感じる。また、大樹に寄りかかったり抱き着いたりして、ともに静かな時間を過ごす。阿里山には、世界的な森林セラピーの基地となりうる大きな可能性が秘められているという。
阿里山は開発が早かった分、早くから生態調査も行われ、阿里山の名を冠した新品種も数多く発見されてきた。林務局が発行した『以阿里山之名植物図誌』には、1896年から現在までの120年にわたる正式な植物調査が記録されている。植物学者が「阿里山」の名をつけた維管束植物は120種あり、そのうち55種は台湾の固有種だ。
標高904メートルにある梨園寮駅はホタルの名所であもる。阿里山一帯では一年中ホテルが見られるため「蛍河鉄道」の愛称でも呼ばれている。初春から冬の終わりまで、さまざまな種類のホタルが見られる。ホタルは水質や環境の指標となる昆虫であることから、阿里山の生態がよく保存されていることがわかる。また、梨園寮駅から交力坪駅までの間にある太興村では、毎年秋に、一千万羽にのぼるアマサギが北から南へ渡る姿が見られ、この季節限定の壮大な景観は「万鷺朝鳳」という名で呼ばれている。
阿里山森林遊楽区では、台湾固有の鳥類であるサンケイやミカドキジの姿も見られる。眠月線の沿線には、タイワンイチヨウランの自然保留区があり、小笠原展望台ではキョンが自由に行き交う姿も楽しめる。こうした人と自然との調和がとれた環境は、これまでの林業政策を振り返らせてくれる。かつては山から木材を切り出すことが目的だったが、今日では「持続可能な林業」が重視され、私たちは山林と共存する方向へと邁進しているのである。
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幼い頃からずっと阿里山鉄道に親しんできた蘇昭旭が、阿里山鉄道の模型を使ってスイッチバックについて説明する様子。
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小さな列車で阿里山を登っていけば、気候帯の変化に伴って変わる景色を楽しめる。
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樹木とともに静かなひと時を過ごせば、森林が心身をいやしてくれる。
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森の中を抜けていく列車の姿は、まるで童話の世界のようだ。
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阿里山では、自然や歴史、庶民の記憶の持続可能な共存への道を見出すことができる。