「生活体験」という旅
文化は受け継がれ、蓄積していかなければならない。すべての経済活動は、住民の多様なライフスタイルから来ている。
台南では、旧暦の7月7日(俗称「七娘媽生」)に台南特有の「16歳の成年礼(成人式)」が行なわれる。昔から続くこの儀式は、開隆宮(太平境)と開台天后宮(安平)で行われる。
安平の開台天后宮で行われる成人式には、地元の平安里の住民が総動員される。儀式当日の午前4時、里長(地域の長)が地元の女性ボランティアを率いて天后宮に集まり、参加者に提供する「打滷麺」の準備を始める。儀式に必要な飾りつけである七娘媽亭(鳥母亭)も平安里の住民たちが用意する。若者は七娘媽亭の下をくぐる(鳥母宮を出る)ことで、七娘媽の庇護の下を離れることを象徴する。子供が大人になる成年の儀は厳かに執り行われる。
儀式が終了すると、来客には打滷麺がふるまわれる。台南料理は甘味が利いているので知られるが、たっぷりと具が入り、とろみをつけた打滷麺も例外ではない。
美食と言えば、台南は小吃(庶民のグルメ)で知られる。赤崁楼の傍らの石精臼、新美街は作家が描く日常の場である。米糕(おこわ)、魚羹(魚の入ったとろみのあるスープ)、担仔麺(タンツー麺)、炒鱔魚(タウナギの炒め物)、燙牛肉(熱いスープを注いだ生牛肉スライス)、白黒切(豚のモツ)、炸糖糕(揚げ菓子)など、庶民の大好きな味がすべてそろっている。
場所を今海安路一帯へ移そう。かつて「五条港」と呼ばれた安海港、南河港、南勢港、仏頭港、新港墘港では、2005年からアートによる町づくり運動が始まり、台南における古い建物のリノベーションがスタートした。海安路に沿い、それと交差する民族路、民権路、民生路、友愛街、神農街の一帯の裏通りでは、古い建物のリノベーションが進み、そこにアーティストがアトリエを開いたり、特色ある民宿などもあり、連休には予約も取れないほど人気がある。
水仙宮(永楽市場)の国華街から大菜市の正興街(西市場)までの一帯には、古い建物を改造したカフェやアイスクリームショップ、アート空間と融合したホテルなどがあり、いずれも20~30代の若者が始めた事業である。今では、ここが古都・台南で最もメジャーな観光スポットとなっているのである。
一級古跡に指定されている祀典武廟、通称「大関帝廟」。ガイドブック『グリーン・ミシュラン』でも三ツ星の評価を受けた。(金宏澔撮影)
儀式が終わると、さまざまな具をのせた打滷麺がふるまわれる。
南門路上、孔子廟の傍らにある幅38センチの狭い路地に、リノベーションされた「窄門珈琲」がひっそりとたたずみ、芸術関係者に愛されている。
全美戯院(映画館)では今も手描きの映画看板を掲げている。