ビザ免除のドミノ効果
2009年3月に、まずイギリスが我が国に対するビザ免除措置を決めたことが大きな指標になりました。この措置を採るまで、イギリスの観光ビザ申請費は3250台湾ドルで、ここ数年来、台湾からの渡英者数は年間のべ8~9万人だったので、イギリス政府が台湾で得るビザ発行手数料収入は台北事務所の予算より多かったのです。イギリスやアメリカにとって、ビザ手数料は重要な収入源です。
ビザ免除措置を決定する前に、イギリスは2~3年をかけて全体的な効果を評価し、一つのレポートにまとめました。これは特に台湾のために作ったレポートではなく、全世界に適用できる標準があり、また永遠に適用されるものでもありません。例えば南アフリカは治安が悪いことから、渡英ビザ免除措置を取り消されました。
同レポートは、台湾はビザ免除の条件にかなっているとしており、これをEUが参考とし、プラスの影響力を発揮したのです。
EUはコンセンサス決議を採用しています。中央政府の執行委員会に当る欧州委員会があり、その下に50部門の総局が置かれていて、ビザ免除に関する提案はまず内政総局から欧州議会に提出され、欧州議会では外交委員会、内政委員会を経て本会議で採択されなければならず、すべての段階で同意が得られなければ次の段階へ進めません。
最後は年に2~3回しか開かれない閣僚理事会の審議を経る必要があるため、提案が議事に組み込まれるよう、タイミングを掌握しなければなりません。さいわいなことに、これら15の関門を我々は半年で通過することができました。重要なのは、EUでビザ免除措置を勝ち取った後、その効果が拡大し続けたことです。ヨーロッパ諸国の海外領土であるポリネシア(タヒチなど)などへもドミノ効果が生じて60余りの国と地域に拡大し、欧州のほぼ全域で同様の措置が採られるようになり、アメリカでの決定にも一定の影響力を発揮しました。世界の主要先進国の全てが台湾人にノービザ入国を認め、しかも台米関係はこれほど密接なのですから、米国が台湾にビザ免除を認めるのは時間の問題となりました。
ビザ免除措置はEUでは2011年1月11日から、アメリカでは2012年11月1日からスタートしました。この111という数字は、近年の我が国の外交において重要なマイルストーンとなりました。
活路外交は「外交休兵」とは異なる
Q:ホワイトハウスの報道官は、台湾へのビザ免除措置決定を事前に北京には知らせなかったと述べましたが、両岸関係が緩和したことと、馬総統の活路外交政策は、ビザ免除の実現にどれほどのプラスの作用をもたらしたのでしょう。
A:活路外交は非常に重要で、これが我が国の対外関係開拓の鍵になっています。
まず、両岸関係が緩和したことで双方は国際的な場で衝突しなくなりました。一部ではこれを「外交休兵」と誤解していますが、それは正しくありません。外交は常に積極的に進めていかなければなりません。活路外交は、よりフレキシブルで現実的な方法を見出すというものです。ここ数年、アメリカ、日本、ヨーロッパ、そして東南アジアとの関係はいずれも向上しており、国際組織においてもより大きな空間が開けました。WTOの年次総会には衛生署長が連続4年出席していますし、アメリカやベルギー、パラグアイなどは国際民間航空機関(ICAO)への我が国の加盟を支持しています。
国と国の往来は、経済や教育、文化、旅行など多方面に関わりますが、総統は国民と直接関わる部分を重視しており、ビザ免除やワーキングホリデー協定なども増え続けています。
現在、我が国からオーストラリアへワーキングホリデーで渡航する人は年間1万人を超え、ニュージーランドやイギリスなど英語圏へのワーキングホリデーもほぼ定員に達しています。さらにベルギーやフランスなどとも協議が始まりますので、若者の選択肢はさらに増えます。ビザ免除から広がる効果が非常に多様であることがわかります。
Q:これに続いて、アメリカとのTIFA(貿易投資枠組協定)の交渉はいつから始まるのでしょう。
A:我々の準備は整っており、ビザ免除措置は経済貿易の成長をもたらします。例えば、ビザが必要だった時は、中国大陸にある台湾企業の駐在員が米国へ商談に行く場合、まず台湾へ戻ってビザを取るために数日を費やす必要がありましたが、今は世界の98%の地域にノービザで渡航できます。東京の羽田空港と台北の松山空港、そして台北と上海などの重要路線は日帰り圏になり、台湾企業の世界戦略にも役立っています。
移動時間は短いほど良く、米国からも善意の対応が見られます。2012年のウラジオストクAPEC首脳会議の席上や、米国でAPECやアジア地域を担当する官僚が来訪した際にも、交渉を近々始めたいという話がありました。
アメリカでは大統領選挙が終わったばかりなので、人事異動があり、クリントン国務長官は再任しないと述べています。米国内の閣僚人事が決定した後、早ければ2013年の春から交渉が始められると考えています。
産業調整の準備
国内の産業界には、台湾の市場開放は必至の趨勢だということを覚悟していただかなければなりません。経済貿易交渉には取捨選択があり、関税免除待遇を得るためには、一部産業の保護措置を放棄しなければならないのです。
2002年に我が国がWTOに加盟した時に産業の調整が始まりましたが、産業調整には過渡期が必要で、急ぐことなく、一部産業への衝撃を最小限にしていく必要があります。
EUとの自由化も対米貿易も、目的は互恵と相互利益です。台湾とヨーロッパとの貿易額は600億米ドルに達し、米国は我が国第三の貿易パートナーであると同時に我が国への投資額が最も大きい国です。これらの国々との貿易が発展しなければ、ビザ免除待遇も得られなかったでしょう。
Q:米国との貿易交渉再開は、今後のTPP(環太平洋パートナーショップ協定)への参加に有利に働くのでしょうか。
A:TPPは自由化のレベルがWTOより高く、関わってくる産業も工業、サービス業、農業など広範囲で、さらに労働者や環境、市場透明化、投資、汚職防止、電信、政府調達にまで及びます。
大きな流れから見ると、アジア太平洋地域の経済統合への動きは今後も続いていくでしょう。二国間の自由貿易協定(FTA)やASEAN+3(中国大陸、日本、韓国)もありますし、ASEANはさらに東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への拡大にも取り組んでおり、またアメリカ主導のTPPもしだいに形成されつつあります。これらの動きは、地域経済統合にまだ加わっていない国にとっては孤立化の大きな圧力になります。
ですから、我々にとっては、今後8年間の準備が非常に重要です。国内の産業の国際化は進んでいますが、一部の敏感な商品は産業転換の困難に直面しています。
今後さらなる開放に向かう中で、政府の経済貿易部門は産業転換と経済貿易関係法令の改正に力を注ぐとともに、外交部門は有利な国際的雰囲気を作り出し、引き続き国際社会による台湾への支持を取り付けていきます。その中でもAPECは極めて重要な場です。現在、TPPに参加している11ヶ国はすべてAPECの会員国ですから、我々は他の国々に、我が国の決意を伝えるだけでなく、我が国がTPP交渉の標準に合致するように産業構造を調整する意志があることも伝えていかなければなりません。部門を超えて協力しなければ、この大きな仕事を成し遂げることはできないのです。