「ヒガシシナアジサシ」はカモメ科の中でも最も希少な鳥であり、そのため「神話の鳥」とも呼ばれてきた。1863年に正式に命名されて以来、世界でも5回しか記録されていない。最近では1980年にタイで、1991年には中国の黄河三角州で発見されたという話が伝えられたが、どちらも正式に確認はされていない。
「ヒガシシナアジサシは、オオアジサシの群れの中に混じっているので発見されにくいのですが、私たちが撮ったフィルムには、その姿がはっきりと映っています」と今回の撮影に成功した梁皆得さんは言う。
一般のオオアジサシの体長は45センチほどで、最も顕著な特徴は、尾の先が燕のように割れている点と、パンクファッションのように逆立った頭部の黒い羽、そして嘴が黄色い点だ。ヒガシシナアジサシがこれとは違うのは、黄色い嘴の先端がやや黒くなっている点である。専門家は、ヒガシシナアジサシは世界に100羽余りしか残っていないと見ており、世界の鳥類レッドデータブックには、絶滅のおそれがある種として挙げられている。
現在まで、ヒガシシナアジサシに関する資料が少なすぎるため、その分布や外観、習性などを正確に説明できる人はいない。しかし「今回の撮影の結果から推測できるのは、オオアジサシと似ていて、棲息地としては湾や河口や島を好み、単独か二羽で飛び、魚やエビを食べるということです」と梁皆得さんは説明する。
このアジサシのドキュメンタリーフィルムの撮影スタッフの一人だった林顕堂さんによると、今回発見された4対のヒガシシナアジサシのつがいは、それぞれ1羽ずつ雛を孵したという。しかし残念なことに、その棲息地は他のオオアジサシの群れの中にあったため、どれがヒガシシナアジサシの雛なのか、外観からは見分けることが出来なかった。その後は、海の波が高くなってアジサシが生息する島への上陸が難しくなり、撮影スタッフの計画は中断された。そして、再び保護区に上陸した時には、ヒガシシナアジサシはすでに余所へ移っていて、さらに雛を観察することはできなかったのである。
1960年代から80年代の頃、馬祖地区では毎年30種余りの鳥類が無人島で繁殖を繰り返し、最も多い時には、その数は数万羽に上ったと言われている。しかしその後、住民が鳥の卵を大量に取り、また大陸の漁船が爆破による漁を行なうようになったため、鳥の数は急激に減少した。そうした中で、連江県は99年に北竿郷の白廟、中島、鉄尖島、三連嶼、進嶼、南竿郷の瀏泉礁、そして莒光郷の蛇山、東引の双子礁という八つの無人島をアジサシの保護区に指定し、生態の記録を開始したのである。
現在、馬祖地区で見られる主な夏の渡り鳥にはカモメ科のマミジロアジサシ、オオアジサシ、ベニアジサシ、エリグロアジサシ、ウミネコ、サギ科のクロサギ、アマツバメ科のアマツバメの7種がある。中でもウミネコの繁殖地としては、馬祖は全国一の規模を誇る。またベニアジサシは、世界的に最も深刻な脅威にさらされた鳥類に認定され、保護対象とされている。また、馬祖はオオアジサシの繁殖地としては世界で最も北に位置している。
これらアジサシは5月の初旬に南方から次々と馬祖の無人島に渡ってきて、求愛と繁殖を行ない、9月の初旬に再び飛び去っていく。5月から9月までの夏いっぱいをアジサシは馬祖で過ごすのである。
連江県では、現在のアジサシ保護区を生態観察旅行のポイントとすることを計画している。しかし、渡り鳥の繁殖の習性は人間の干渉の影響を受けやすいため、どのようにして生態保護とレジャーを両立させるかが、大きな課題となっている。