ビンロウの山が探索の楽園に
嘉義中埔にある「築夢森居生態農場」は、もともとは放置されたビンロウ畑で、かつて除草剤が使われたため、ビンロウ樹と枯草しか生えていなかった。そこを、劉朝維・湯怡楓夫妻が十数年をかけて整備し、植物を復活させ、今ではチョウが舞う豊かな生態が戻っている。
「見てください。キシタアゲハの幼虫が蛹になろうとしています。ロープで自分を縛っているような感じです」。劉朝維の説明に従って園内を行くと、彼はカバマダラを捕まえ、曲がりくねったストロー状の口を見せ、チョウが花の蜜を吸う仕組みを教えてくれる。続いてベニモンアゲハの幼虫を捕まえると、敵から身を守るためににおいを出す臭角のにおいをかがせてくれ、尖っているように見えるが実は柔らかい肉棘に触ることもできる。「チョウの幼虫に毒はなく、少数の毒蛾の幼虫に触った時だけ肌が腫れたりかゆくなったりするのです」と、人々の毛虫に対する誤解を解く。「生態を理解するには案内人が必要」というのが、彼が環境教育の場を設けた目的だ。
自然環境との持続可能な関係を保ちたいという思いから、夫婦はコブミカンやクマツヅラ、ヒヨドリバナなどさまざまな植物を植えて土壌の水分を保つようにしている。園内には劉朝維が「いびきをかく木」と呼ぶレインボーユーカリが植えられている。この植物は生長が速く、絶えず樹皮が剥がれ落ちて歳月とともに樹皮の色が豊かになっていく。劉朝維は参加者を呼び集めてこの木の近くで耳をすましてもらう。すると、水分が維管束を通る音が、まるでいびきのように聞こえ、生命の力を感じることができるのである。
園内には自然の生態が戻っている。空にはカンムリワシが飛び、タヌキが現われ、地面にところどころ穴が開いているのはモグラがいる証拠だ。劉朝維は「築夢森居」を山林教育の場とし、人々を沢登りや木登りにも連れていく。夏には近くの澐水渓に浮かんで遊ぶこともできる。劉朝維は環境にやさしい窯を作り、来訪者に現地の野菜を採ってもらい、自分たちで生地をこねてピザを作る。好き嫌いのある子供も、嫌いなはずの野菜をきれいに平らげる。「子供の頃の夢を実現し、森林に暮らす」というのが劉朝維が「築夢森居」に込めた思いで、もとは荒れ果てていたビンロウの山を、大人も子供も自然に触れられる楽園へと変えた動機なのである。
大崎集落にある創芸基地では、農村の日常生活とゲームを組み合わせた体験ができる。写真は廃材で作った投石器。