旧暦9月9日の重陽の節句を前に、高齢化社会について考えてみる。高齢者への想いがチャンスに繋がらないだろうか。
塀も資格制限もない高齢者のコミュニティ、通りは広く、並木や花壇が点在し、歩道と車道が分離している。疲れたら点在するベンチに座り、店から流れる心地よい音楽に耳を傾ける。
ショッピング・モールでは、無料で電動カートが提供され、大きな文字の製品説明を見て、高齢者に親切な店員さんと言葉を交わす。買い物ついでに、カルチャーセンターの講座に申し込み、レストランでは栄養豊富な呑み込み易いシルバー・ランチを楽しめる。毎月の公園ライブに出演するのは、腕に覚えのある近所のお年寄りである。
急速に増加する高齢者人口がもたらす変革により、こういった高齢者向けの夢の地域社会が実現するかもしれない。
実現の鍵となるのは、政府や実業界、あなたや私が生の価値に新しい思想を持ち込み、シルバー産業が単なるビジネスチャンスではなく、本物のビジネスと社会革命となることである。
経済建設委員会の統計によると、台湾はあと14年で超高齢化社会に入り、町行く人の5人に1人が高齢者となる。
世界的にも高齢者人口が増加し、産業の消長と消費行為の変化が見て取れる。
例えば高齢化が進む日本で縮小する業種は、病院の小児科、玩具、幼児教育と若い家族向けの不動産など、成長が見込まれるのは余暇と旅行、ペット産業に宗教と健康、介護である。
台湾でまず影響を受けているのが産婦人科である。かつて産婦人科は台湾の成長産業だったが、最近では廃業が続き、機を見て敏なるは老人ホームに転身している。台東県の聖母病院はかつてお産の多い病院だったが少子化には勝てず、7年前に産婦人科を廃止し、ホスピスやデイケアセンターを設置して歓迎されている。
高齢化の恩恵を受けているのは成人用おむつ、サプリメント、行動補助器で、ここ2年で車椅子は2割の成長を遂げた。さらに文字が大きくラジオ機能もある携帯電話や、操作の簡単なスピーカーフォン、iPadも高齢者に人気である。

楽齢ネットは身の回りのことを自分でできる健康な高齢者をターゲットとし、生活に便利な商品を提供している。
高齢化の波は、新しいビジネスのチャンスでもある。
工業研究院の調査によると、高齢者向け産業である介護サービス産業(内需)と、医療機材産業(輸出)の産業規模は2007年に1065億元に達し、2015年にはさらに3.9倍、4165億元に上ると見られている。
しかしシルバー産業は医療介護産業かというと、そうではない。高齢化社会のビジネスチャンスは、ベビーブーマーの定年と関係し、マーケティング専門家は新しい世代の高齢者の心理を探り、効果的な販売戦略を練っている。
例えば、中高年のライフスタイルに関する調査では、日本の団塊世代は若いときからジーンズを反抗の象徴と考え、熟年に入ってもジーンズで自己を表現し、おしゃれや流行に敏感だと自分を見ている。小さい頃から任天堂で育った40代、50代は、中高年になってもゲームで遊ぶと、ゲーム会社も見ている。

国民所得が上昇するに従って、レジャーや文教施設も整った高級ホテル並みのサービスを謳う高齢者用賃貸住宅も登場して人気を博している。写真は淡水にある潤福生活新象館のロビー。
台湾を見ると高齢化の進展はこれからだが、敏感な業界は既に手を打っている。
電動カートを生産する必翔工業を例にとると、20年前に開発した世界最初の四輪カートは一台3〜7万元で、操作は簡単で安全性も高い。当初のユーザーは身障者が主だったが、現在では世界の三大ブランドに育ち、ユーザーは高齢者(75%)が中心である。年平均7万台を販売し、輸出比率は9割に上る。
高齢者の多くが電動カートで買い物や近くの友人を訪ねに出かけ、行動の自由を得て健康に元気に生きられる。
高齢者住宅もお年寄り向けの事業として発展している。子供との同居を望まず、退職金で生活に困らない老後を過ごそうというニーズがあり、しかも独居老人が増える傾向にある。国内の潤泰、台塑、奇美などの企業グループは、高級ホテル並みの部屋と食事を謳い、健康管理、医療サービス、カルチャーセンターを併設した高齢者向け住宅の開発に乗り出している。
台塑が2005年に開発した桃園県亀山の養生村を例にとると、敷地34ヘクタールに3700戸が開発される。林口の長庚病院に近く、医療サービスを受け易い。お手頃価格を原則に、14〜22坪のマンションは月額1.8から3.1万元で人気を呼んだ。
もう一つ、成長が見込まれるのが美容医療産業である。
最近、効果の長い注射によるマイクロ整形技術を開発した長虹病院の楊志賢院長によると、お金をかけて若く見せようとする中高年が増えているという。「容貌で気持ちを変えると言いますが、人間関係の改善や地位にふさわしい容貌を望む人など、こういったお客を有閑族と尊重しています」と言う。
これ以外にも、中高年向け事業の開発が進んでいる。警備保障会社はハイテクと警備員派遣サービスを結びつけ、家にいながらにして介護を受けられるサービスシステムを開発した。タクシー会社では高齢者向け配食サービスを、玩具メーカーは高齢者向けの積み木やカードを開発中である。「一般の人は玩具と言うと幼稚なものと見がちですが、考え方を変えれば高齢者団体や介護施設向けの直接ビジネスを考えられます」と、玩具産業組合では話す。

日本製の大型拡大鏡。机の上に置けば楽に読書ができる。
仔細に見ると、高齢者向けの便利で優しい製品が外国ではどこでも買えるのに、台湾ではまだニッチ市場である。
オンラインショッピングサイト「楽齢ネット」創設者の張慶光は、3年前にハイテク関係の職を辞して、台湾最初の熟年向け生活百貨のネットショップを開設した。今では全島に実体店舗4店舗を構える。
理想としては、中高年向け産業は老いて健康な退職世代を対象とすべきと彼は言う。健康な高齢者をターゲットにすれば、老いても優雅にという願いを実現できるからだ。
高齢者と直接に接して、実は多様で敏感でありながら、共通して、老いても差別されがちな高齢者に分類されたくないと思っていることが分った。
そこで楽齢ネットでは、高齢者が外出して便利に社会と接触できる補助器具を集め、楽しく年齢を忘れることを目指した。
例えば、ステッキと雨傘が合体した仕込杖のステッキ傘である。台湾企業が開発した自社ブランドのレイトンは、握りを大きくして滑り止めをつけ、普段は傘を杖として使って、年寄りらしく見せない。雨が降れば傘に仕込んだ杖を取り出せばよい。日本の国民的商品を導入したマジックテープシューズは軽く、歩きやすく滑りにくい。
台湾は発明王国といわれるが高齢者の生活補助器具は開発が少なく、たまにあっても輸出用で、狭い国内のニッチ市場を目指す会社がないと、張慶光は嘆いている。
しかし、こういった現象にも転機が見られ、楽齢ネットの理念に共感し、また高齢者の反応を感じる会社が出てきた。現在楽齢ネットの最高価格の商品は4万元の電動ソファで、スイッチひとつで座面が上下し、足に力のない高齢者の立ち座りに便利である。ある老婦人がこのソファを試して、突然泣き出したという。張慶光が訳を聞くと、長年にわたり一人で脳梗塞のご主人の介護を続けてきたが、毎回ご主人を立たせると自分が倒れてしまい、体中が痛くなるのだという。「高齢者の生活レベル向上に役立つというのが、楽齢ネットの存在価値なのです」と彼は続ける。

電動カートは高齢者の生活の質を高めることができ、足の不自由な高齢者にはなくてはならない存在でもある。
拡大を続ける中高年産業だが一度は向き合わなければならないのが、葬儀産業である。
内政部の統計によると、台湾では1988年に通年の死亡者数が初めて10万人を超え、それから上昇を続けて、2010年には14万6000人を数える。
中華生死学会の李日斌事務長によると、台湾人の平均寿命を80歳として計算すると、2036年から台湾のベビーブーマー世代が平均寿命に達し、そこから12年継続して通年の死亡者数が40万人を超えるという。それから下降に転じるが、18年間は38万人前後を維持し、葬儀産業の成長は驚異的と言える。
李事務長によると、葬儀費用を一人当り平均36万元と計算すると、10年後の産業規模は1400億元と現在の2.6倍に達し、しかもそれが30年は続く。ハイテク産業の黄金時代が10年であるのに対してである。
台湾では1990年代に土葬から火葬へ、納骨堂への埋葬へという葬儀産業の改革が始まり、火葬率は90%に達する。業者によると、納骨堂の区画数は今後40年分は十分あり、墓地不足の問題はないという。しかし、場所の良い富裕層向けの高給墓地の値段は上がっている。
「将来の葬儀改革の重点は、葬儀の簡素化でしょう」と李事務長は説明する。台湾人は入棺と通夜、葬儀、出棺、火葬から納骨堂での葬儀、納骨まで、入念に日を選ぶ。台北第二葬儀所ではすでに、葬儀向きの日に遺体保管所や祭壇などが足りなくなっている。将来、死亡者数が増加した場合、葬儀所不足はさらに深刻となる。
そのため内政部では葬儀簡素化の可能性を探り、入棺から納骨までの期間を短縮し、公衆衛生のリスク低減を考えている。
衣食住から生老病死まで、私たち自身の観念の変革と推進を通じ、将来は高齢者により優しい製品やサービスが生まれ、誰もが恩恵を受けられることを願うものである。