世界三大コンピュータ見本市の一つ、台北国際コンピュータ見本市（COMPUTEX TAIPEI）が6月に台北の世界貿易センターで開催された。会場には、ウエアラブル端末、クラウド･プラットフォーム、タッチパネル･アプリケーションなど、数々の革新的な製品が展示され、新たなトレンドを予感させた。

1990年代にネットが登場して以来、人々の生活は大きく変わった。私たちはバーチャルの世界でコミュニケーションし、家にいながら何千キロも離れたところの商品を注文すれば家まで届くようになった。名もない市民がオピニオンリーダーになることもある。今では通信速度も増して誰もがスマホを操るようになり、ソーシャルネットワークの形も変ってきた。

メッセンジャーアプリLINEの可愛いスタンプを使えばユーモラスに相手に気持ちを伝えられ、普通の市民もソーシャルネットワークを使えば意見や創意を発表する場が得られる。

ソーシャルネットワークの強大な力は、内外の社会運動にとって重要な存在となっている。2011年、チュニジアの民主化運動（ジャスミン革命）や米国の「ウォール街占拠運動」ではツイッターやフェイスブックが重要な役割を果たした。台湾でも2006年の楽生院保存運動や2009年の野イチゴ学生運動、そして最近の原発反対運動や今年のヒマワリ学生運動などにおいて、ソーシャルネットワークで運動の輪が広がった。

こうしたコミュニケーションは容易で楽しいため、多くの高齢者もこの列に加わり、社会運動の裾野を広げている。台湾のネットサービス会社、米斯特六の創設者･劉威麟によると、フェイスブックで意見を発表する時は躊躇するが、テーマが盛り上がると、それが大きな力へと結集されて「ネット市民」の輪が形成されるという。

この20年、インターネットは生活の隅々にまで浸透してきたが、台湾ではこれからどのような変化が起きてくるのだろう。

 

劉威麟は、台湾のネット産業は一歩ずつ前進してきたという。1990年代初期、インターネットはチャット機能が中心だったが、1995年にはニュースポータルサイトが注目され、台湾でもさまざまな産業がネットに参入し始めた。

2000年にネットバブルがはじけると、起業家たちは保守的になって「小物路線」へと転換し、情報交流の原点へと立ち返った。こうして個人の意見や情報をシェアするプラットフォームが生まれ、動画共有のYouTubeやブログプラットフォームのBloggerやWorldpressなどが出現した。台湾でも無名小站や痞客邦などが現われ、Web 2.0時代に突入した。

劉威麟によると、この頃からネットユーザーは受け身の存在から変化して能動的に画像や情報などのコンテンツを自ら発信するようになった。個性的なブロガーが次々と現れ、そこから有名になる人も多数出てきた。米国の芸術家アンディ･ウォーホルの「将来は誰でも15分で有名人になれるだろう」という言葉が現実のものとなった。

2006年以降、ツイッターやフェイスブックなどのSNS（ソーシャル･ネットワーキング･サービス）が誕生し、さらに3Gとスマホの出現によって、ユーザーは常にリアルタイムで情報を発信できるようになった。「誰もが中継車になったようなものです」と劉威麟は言う。

 

世界的なイノベーションが進む中、今でも電子掲示板のPTTやMobile 01、それにSNSのフェイスブックなど、新旧が共存しているところに、この20年の台湾のネット発展の特色が見られる。

トレンドウォッチャーで関鍵評論網･編集長の楊士範は、長年にわたって人気を維持しているサイトは、それぞれ他が取って代わることのできない機能を備えていると指摘する。例えば、台湾の電子掲示板PTTは、文字に限定した自由な討論の空間を提供していてユーザーに根強い人気がある。台湾の人気サイトトップ3に名を連ねる巴哈姆特は、1999年に学術掲示板から企業経営へと転換し、専らゲームやアニメを扱うフォーラムを展開している。2000年に開設されたデジタル製品フォーラムのMobile 01は、商品を実際に使用した体験を紹介しており、ヘビーユーザーやプロ級のユーザーが専門用語を駆使して議論する独特の空間となっている。

台湾のネットの発展は世界的な趨勢の中にあるものの、独自のソーシャル･ネットワーキング･サービスは出てこなかった。そうした中で、2008年に米国からフェイスブックが入って来るや、音信不通の友人が見つかることや、ゲームが面白いことなどで大人気となった。

10年前は親しい友人とMSNでチャットするだけだったが、今ではネットでつながる人々が宣伝者の役割を果たして情報が瞬く間に広がるようになり、「シェアの概念がこの10年で完全に変りました」と楊士範は言う。

スマホの普及と3Gのスピードが後押しする形で、台湾でもネット起業が再び活発になり、日本や米国などの国際的なベンチャー･キャピタルから注目されるようになった。日本のサイバーエージェント･ベンチャーズは台湾のレシピ共有サイトiCookに投資、LINEの親会社である韓国のネイバー社は台湾の走著瞧（Who's Call）通話アプリを買収、アメリカの電子メールセキュリティ会社Proofpointはセキュリティソフト制作の阿瑪科技（Armorize）を買収した。

劉威麟は次の段階のイノベーションで注目されるのは、企業の注文を受けて広告を自動的にターゲットに送信するB2Bソフトや、台湾企業の輸出市場開拓を支援する電子商取引プラットフォーム、ウエアラブル技術などだと指摘する。

3Gが人々の生活を大きく変えたが、少なからぬアプリが今も通信速度やハードの制限を受けている。そうした中、今度は通信速度のより速いLTE 4Gが登場した。「これによって、既存のテクノロジーがアップグレードするだけでなく、想像を覆すような新たなものが生まれてくるはずです」と楊士範は言う。