中央研究院環境変遷研究センターの劉紹臣主任によると、過去百年、台湾の都市部の気温は北半球の平均0.7℃上昇の2倍、1.5℃上昇している。地球温暖化は背景に過ぎず、各国の主要都市の気温上昇現象は、ヒートアイランド現象であることを示していると言う。

ヒートアイランドというのは、世界の大都市に共通して見られる地域的な異常気象現象で、簡単に言うと、都市部の気温がその周辺地域に比べて高いというものだ（例えば、台北市の夏の正午の気温は近隣地区より4.5℃も高い）。

この現象が発見されたのは1960年代の人工衛星の発明による。科学者は赤外線衛星画像から温度の分布を分析できるようになり、各都市部の温度が周囲から浮き上がって島のように見えるためヒートアイランドと呼ばれるようになった。

ヒートアイランド現象の原因はいくつかある。1）都市には鉄筋コンクリートやレンガ建築、アスファルト道路が集中しており、これらの建造物は熱伝導率と熱容量が高いため、太陽の熱を大量に吸収する。2）植皮の減少で、植物や土による含水および水分蒸発が激減して気温が下がらない。3）巨大な建造物が都市の通風効率を下げる。4）自動車やバイク、冷房などが大量の熱を放出する。5）自動車などが出す汚染物質が都市上空の雲霧を形成し、夜間の放熱が妨げられる。

台湾におけるヒートアイランド現象の程度と範囲はどれほどのものか。劉紹臣と許乾忠、陳正平が2009年に発表した長期気温変化研究によると、1980年以降、台北と台中と台南の三大都市の気温上昇は0.8℃で、花蓮、台東、恒春の中小都市の気温上昇0.4℃の2倍に達している。

都市のヒートアイランド現象を緩和する最良の方法は、緑を増やすことだ。研究によると、3ヘクタールの緑地は周囲の気温を0.5℃以上下げ、1ヘクタールの樹木は年間67トンの粉塵を吸収する。写真は台北市の中心で25.894ヘクタールを占める大安森林公園。

また1961〜2005年の間、台湾各地の「熱帯夜」の日数（グラフ1）も増加しており、劉紹臣によると、これもヒートアイランドの影響だ。昼に吸収した大量の熱が夜間に放出されて気温が下がらないのである。中でも台北市の増加率が最も高い（台北の熱帯夜は年35日から100日超に増加）。

さらに、1961〜2005年の台湾各地の「昼の気温が37℃を超える」日数の変化（グラフ2）を見ると、やはり台北で著しく増加し、年間5日以下から12日まで増えている。劉紹臣によると、他の地域にはこのような現象は見られず、これは粉塵や局地的な雲の増加が冷却作用に影響しているからだと考えられる。

まとめると、台湾は世界で最もヒートアイランド現象の深刻な地域かも知れないと劉紹臣は言う。台湾は本来、周囲の海が熱を吸収するため、同緯度の内陸都市ほどの猛暑に見舞われることはないはずだ。しかし、40年来の都市化と工業化で西部平野の大部分は建造物やアスファルトに覆われ、もともと水蒸気によって周辺の気温を下げてきた水田も減少している。ここから見ると、ヒートアイランド現象の範囲は今後も拡大し続け、台湾の平地全体に広がるおそれもあると言う。

都市部のヒートアイランド現象が温暖化に拍車をかけている。科学者によると、このままの速度で温室効果ガス排出が続けば、25年もたたないうちに、熱波と干ばつ、豪雨と土石流が繰り返される時代がやってくるという。

温暖化とヒートアイランドは人間の健康に影響をおよぼす。

医師によると、高温や日光に長時間さらされると中枢神経の体温調節機能が混乱し、暑熱障害（熱中症）になる。高温多湿の台湾では、暑熱障害を起こす確率が高い。

高温多湿の環境で大量の発汗によって電解質が失われると、めまいや頭痛、虚脱感、吐き気などを覚え、軽いショック状態になる。さらに体内の塩分分配が失調すると筋肉の硬直などの症状も出る。この場合、体温は通常39℃以下で、水分と塩分を補給し、涼しい場所へ移れば好転する。

さらに症状が重くなると体温は40.5℃を超え、体温調節機能が働かず、汗が出ずに皮膚は乾燥する。心拍数が増え、全身が痙攣を起こし、重い場合は意識障害も生じる。体温が42℃を超えると、死に至る肺水腫や心肺機能障害、あるいは脳に障害が生じることもある。

研究によると、高齢者の熱中症発生率は一般成人の3倍に達する。2003年にヨーロッパを熱波が襲った時は、3万人以上が死亡、その大多数は高齢者だった。また心臓･血管に疾病のある人や肥満、アルコール依存症患者などもハイリスクグループとされる。

熱中症予防の方法としては、高温の環境で長時間活動しないこと、頻繁に水分と塩分を補給し、日焼け防止機能と吸水性のある服を着ることなどが挙げられる。また、冷房の利いた室内と室外の温度差が10℃を超えることが多いため、頻繁に出入りすると体温調節機能が低下し、風邪をひいたり、呼吸器アレルギーを起こしやすくなる。エアコンのきかせすぎに注意し、冷房のきいた部屋に長時間こもらず、頻繁に白湯を飲み、運動して体力をつけるよう医者はアドバイスする。

グラフ2：台湾各地で気温が37℃を超えた日数の変化（1961-2005年）/37℃を超えた日数は台北市（青）で顕著に増加し、年間5日以下から12日以上まで増えている。/資料： C.-J. Shiu, S. C. Liu and J.-P. Chen, 2009: Diurnally asymmetric trends of temperature, humidity and precipitation in Taiwan, J. Climate, 22, doi:10.1175/2009JCLI2514.1, No. 21, 5635｡V5649

猛暑の中ではエアコンが頼りだが、これは省エネ･二酸化炭素削減に反し、温暖化の悪循環となる。また、さまざまな「システム」に失調を来し、都市生活、さらには生命財産にまで脅威が及ぶ可能性もある。

台湾が猛暑となった7月3日と4日は幸い週末で電力消費量の多い工場は休みだったため、電力不足には至らなかった。だが台湾電力によると、この2日間の瞬間電力使用量は2008年と09年のそれを超えており、猛暑が続けば、電力不足となった可能性もあるという。

この他に、今年熱波に襲われている世界の各都市では次のような危機が生じている。

アメリカ･ニュージャージー州のニューアークでは7月初旬に39.44℃という過去最高の気温を記録し、電線が暑さで緩んで垂れさがり、鉄道の線路は熱で膨張し、通勤列車の遅れや不通が相次いだ。

ドイツでは3本の列車で車内の空調システムが高温で故障した。うち駅から遠い位置にあった列車はハイテク仕様で、手動で窓を開けることができず、車内の温度は50℃に達して52人が熱中症になり、緊急に病院に送られた。

多くの人が、エアコンさえあれば暑さはしのげると考えているが、実は一般のエアコンは、屋外の気温が40℃を超えると冷房から送風に切り替わる機能を備えている。これは、オーバーヒートによる故障や爆発などの危険を避けるためだ。電器メーカーによると、エアコンは12時間以上連続してつけてはならず、設定温度も通常より1〜2℃高くして、コンプレッサーのオーバーヒートを避けるべきだという。

グラフ1：台湾各地の「熱帯夜」日数の変化（1961-2005年）/台北市（青）では年に35日から100日超まで増え、増加幅が最も大きい。他は、増加幅の大きい順に台中市と台南市（黒）、東北部（赤）、西南部（緑）、離島（黄）。/資料： C.-J. Shiu, S. C. Liu and J.-P. Chen, 2009: Diurnally asymmetric trends of temperature, humidity and precipitation in Taiwan, J. Climate, 22, doi:10.1175/2009JCLI2514.1, No. 21, 5635｡V5649

猛暑が常態化する中、一部の国では「高温手当」や「高温休暇」が必要とされるようになってきた。中国大陸では2年前から「高温」を「職業病防止法」の中の危険因子に加え、地方政府は企業に対し、毎年6〜10月に気温が33℃を超えた時には「一般従業員および冷房のない環境で働く者」に「高温手当」を支給するよう求めている（実際には徹底しておらず、多くの企業は代わりに昼休みを2時間に延長している）。イランの首都テヘランでは、気温が40℃に達すると政府が2日間の「高温休暇」を宣言し、公共機関や学校は休みとなる。

最近は台湾でも少なからぬ学者や労働団体が、屋外で働く人々を対象に「高温休暇」または作業時間の調整を考えるべきだと主張している。文化大学土地資源学科の楊之遠准教授は、政府の気象部門は熱波警報システムを構築し、社会福祉機関や医療衛生機関も対策を立てて国民の健康を守るべきだと提案している。

ヒートアイランド現象の発生は都市の設計計画時に環境を十分に考慮しなかったことから来ており、これを改善するには市街地の建築物を含めた改造や、都市計画関連の法令面での検討も必要になる。

例えば、建造物の改善措置には次のようなものがある。1）建造物や駐車場の緑化を奨励する。2）道路表面に透水性のある素材や技術を導入し、同時に雨水の回収再利用システムを改善する。（例えば、下水道の雨水を回収して道路の植栽の灌漑に用いるなど）。3）屋上を緑化したり、屋上に防熱ブロックを敷いたり高反射性塗料を塗ったりする。

全体的には次のような対策が考えられる。1）都市の緑化や河川および農地などの自然環境を保全する。2）新たな建築物には一定程度の省エネ基準に達することを求める。3）都市計画の建造物の配置においては、自然の地形と風向を考慮し、通風を確保する。

さまざまな対策を同時に打ち出し、しかもそれを継続していかなければ、ヒートアイランドをオアシスに変えることはできないだろう。