2. イマーシブ・シアター
台湾館の中に入ると、直径12メートルの明珠(球体)の内部には、また別の世界が広がっている。
入館してエレベーターで4階の球体内部へ入ると、そこは解像度8Kに達する4D、720度のイマーシブ・シアターだ。(1Kは1024×1024画素、8Kは8192×8192画素。4Dは3Dに感覚を加えたもの)
呉菊によると、3D映画「アバター」が大ヒットした影響で、今回はドイツ館や上汽GM自動車館なども3Dを採り入れ、360度の3Dシアターを売り物にしている。しかし、さらに難度の高いイマーシブ・シアターを打ち出したのは台湾館だけだ。また解像度は、5年前の愛知万博の日本館で上映された映像の6倍以上だ。
「イマーシブ・シアターの特徴は、水平方向と垂直方向の合計720度の全方位型の映像です。中央にかけられたブリッジに立つと、12台のプロジェクターによる映像と8チャンネルの音響が四方八方から包み込み、かつてない体験が出来るのです」と呉菊は語る。
この映像は、台湾のドキュメンタリー監督・頼豊奇が「自然都市」をテーマに製作したもので、自然と調和して暮らすという台湾人のビジョンを4分間で表現している。
映像は、宇宙から見た地球から始まる。東アジアから台湾へとズームし、玉山の壮麗な雲海、阿里山の原生林、森を行く水鹿や雲豹、サンケイなどの原生動物、さらに低海抜地域の蘭や蝶や蓮の花が映し出される。
海の美も忘れてはならない。観客は海底にいるような感覚で熱帯魚の群れや珊瑚の産卵の瞬間を目の当たりにする。そして映像は都市へと移り、観客はカメラとともにMRTに乗って台北を行き、高雄では港の夕陽を眺め、最後に天灯を上げて福を祈るのである。
頼豊奇によると、イマーシブ・シアターが一般の影像と違うのは「枠がない」ことだと言う。観客は、自分が場面の中に浮いているように感じ、臨場感と大きな衝撃を感じる。
もう一つの特色は4Dだ。3Dに感覚的体験が加わるものである。森や蘭の映像では、フィトンチッドや蘭の香りがし、海面でイルカが跳ねる時には飛び散る水滴を感じる。
3. 点灯水台と奉茶儀式
外と中でマルチメディアに驚嘆した後は、最も台湾らしい「天灯上げ」を体験する。
もちろん、安全性への配慮から「点灯の儀式」には実際の火ではなくCGを用いるが、ここでも「リアリティ」を感じられるようさまざまな工夫がなされている。
「点灯水台」の下には、太平洋の海水と日月譚の湖水を入れた二重の円形の池があり、その中央には、玉山の特産である美しい玫;瑰石(ロードナイト)が立っている。ここで天灯に火を灯す時、まるで台湾の山水に囲まれているように感じる。
入館者は40人ずつに分かれ、40台あるタッチパネルを使って、まず祈りの言葉を選ぶ。台湾のネットユーザーの投票で選ばれた「国泰民安」「経済騰飛」「環遊世界」といった12の祈りの言葉から好きなものを一つ選んでパネルを押すと、その文字を書いた天灯がLEDの球体に出現してゆっくりと天へと上っていき、実際に天灯を上げているような満足感が得られるのである。
点灯儀式が終わると、台湾館の見学もそろそろ終わりに近づく。最後のエリアである「都市広場」は、南投県の大勢の工芸家が竹を編んで作った大樹のあるスペースで、人々は「大樹の下」で涼を取る。そして、2137人の応募者から選ばれた台湾の「親善大使」が伝統の作法に従って阿里山の高山茶で人々をもてなす。茶杯も天灯の形をしていて、これは飲み終わったら記念に持ち帰ることができる。台湾らしい、もてなしの心遣いである。
「わずか30分ほどの台湾館見学ですが、台湾のテクノロジーや文化クリエイティビティの実力と、友好的で誠実な態度が強く印象に残ることでしょう」と対外貿易協会の王志剛董事長は笑顔で語る。
「台湾は、その『心』によって大きくなる!」とは、今回の台湾館の印象深いスローガンであり、また台湾館の置かれた境遇を物語る言葉でもある。短い準備期間で開幕にこぎつけ、パビリオン面積も限られているが、「山水心灯」は上海万博の舞台で美しい光を放っている。