
カッティル大使は、台湾とマーシャル諸島の政府間、姉妹都市間、人々の間の交流の促進に努める。
鼎泰豊のショーロンポー、火鍋、タピオカミルクティーが好きだ。そう言うのはマーシャル諸島共和国のアンジャネット・カッティル大使だ。台湾とマーシャル諸島の関連性にふれ、大使はオーストロネシア文化や気候変動への懸念、そして魚介文化や臭豆腐を挙げた。
カッティル大使は今年(2024年)初頭にマーシャル諸島共和国(以下「マーシャル」)に帰国してヒルダ・ハイネ新大統領の就任式に参加し、慌ただしく再び台湾に戻った後、『光華』のインタビューを受けてくれた。
大使は、茶色のパンツスーツに、耳元の花飾りと貝殻を編み込んだ首飾りを合わせた、海を感じさせる装いをしていた。2016~2019年にもマーシャル大使館副館長として台湾に駐在しており、再び2023年8月に大使としての派遣となった。「台湾にあまり大きな変化はありませんでした。人々は変わらず温かく親切です。ただ社会や文化は多様化が進んでいますね。そして気候変動の影響でしょう、冬はより寒く、夏はより暑くなっているようです」と落ち着いた様子で語る。

航海に長けたマーシャル人は、パンノキの幹でカヌーの船体や舷外浮材を、パンダナスの葉で帆を作る。
マーシャル人は航海の達人
就任後半年もしないうちにカッティル大使は台中や屏東など10近い自治体を訪れ、姉妹都市の結びつきを固めたり、提携への道を探ったりした。旧暦正月には花蓮県政府を訪問すると同時に太魯閣国家公園にも足を延ばし、壮大な峡谷の風景や温暖な冬を楽しんだ。最も嬉しかったのは、途中で青々と広がる太平洋を見渡せたことで、その海ははるか南の故郷へと続くからだった。
海は台湾とマーシャルをつなぎ、20年以上、両国は強固な友好関係を維持してきた。
29の環礁と5つの小島から成るマーシャル諸島は、台湾と同じく太平洋に浮かぶ島だ。国土面積はわずか181平方キロだが、領海面積は200万平方キロ余りに及ぶ。
「我々は大きな海洋国です」と言ってカッティル大使は、かの有名な「スティック・チャート(ヤシのスティックと貝殻で作る海図)」を指した。据えられた24個の貝殻は人の居住する島と環礁を表し、各スティックは海流を象徴する。
「どの島もマーシャル人にとっては庭のようなものです。我々はカヌーを作り、それぞれの島に行って漁をしたり、作物を植えたり、ヤシやパンノキの実を採ります」。マーシャル人の血には船乗りの遺伝子が流れており、天性の航海の達人なのだと大使は言う。羅針盤やGPSが発明される前から、星座や風向きで海を航行してきた。

マーシャル大使館には、マーシャルの工芸品やヒルダ・ハイネ第10代大統領の写真が飾られている。
台湾を深く体験
太平洋の海流は台湾とマーシャル両国にカジキやマグロ、シイラといった豊かな漁業資源をもたらし、経済を支えてきた。マーシャルではキハダマグロなどの新鮮な魚をよく食べる。刺身にしたり、ココナッツミルクを加えて調理したり、戸外で焼いたりするのだ。またパンノキの果実でさまざまな食べ物も作る。「こんな話をしているとお腹がすきますね」と大使は笑った。
幸い台湾にも美味しい物が多くあると言って、大使は中国語で挙げ始めた。鼎泰豊のショーロンポー、しゃぶしゃぶ、牛肉麺…。1度目の派遣が終わって2019年にマーシャルに帰国した後も、よく台湾のタピオカミルクティーが恋しくなったという。特に大粒のタピオカパールを。
ショーロンポーと言えば、湯気の立つアツアツで中から汁が流れ出るのを、どう食べればいいのか知らない人が多いが、大使は誇らしげに「ショーロンポーの食べ方なら、私は達人です」と言い、箸でショーロンポーをつまみ上げ、もう片方の手の散り蓮華で汁を受ける動作をやって見せた。そして満面の笑みを浮かべ、「これだから台湾では体重が増えるわけです」と言った。
タピオカティーのほかにも、台湾のカバラン(噶瑪蘭)ウィスキーや金門コーリャン酒もたしなむし、昨年(2023年)は大使就任後初めて、雲林県の張麗善県長の招きで古坑郷「台湾コーヒーフェスティバル」に参加し、何種類ものコーヒーや、コーヒーを香料として加えた鶏肉料理なども味わった。「コーヒー農家が山の斜面という悪条件を克服して素晴らしいコーヒーを栽培していることに感銘を受けました」。コーヒー園の広がる美しい風景の中で、ナッツの香りのするコーヒーを飲んだのは台湾駐在中の素晴らしい体験になったと大使は語る。
昨年12月には阿里山の自然の中で、茶の達人による接待を受けた。大使は目を閉じて「その環境や雰囲気で、茶を飲むことが心を落ち着かせ癒しになることをしみじみ感じました」と言う。

「スティック・チャート」は、24個の貝殻が人の居住する島と環礁を表し、各スティックが海流を象徴する。
オーストロネシア文化や気候変動
休日には台湾各地の原住民集落を訪れるのが好きで、「多様な台湾を理解できるし、台湾原住民にはマーシャル諸島と共通のオーストロネシア文化やその遺産がありますから」と言って、パイワン族の入れ墨やアミ族の言葉を例に挙げた。アミ語の目や耳、また祖母と孫息子の間の呼称、数字などの発音がマーシャル語と同じで、ほかにもダンスのポーズや、歌唱の発音方法が似ているという。「これらは深く力強いつながりです」。
2018年に両国はオーストロネシア語族文化に関する協力協定を結び、マーシャルはオーストロネシア語圏諸国の中で台湾と初めて協定を結んだ国となった。カッティル大使は、この協定が両国の文化的つながりを促進し深めるための良い枠組みだと考える。マーシャルは「オーストロネシア語族フォーラム」の発起国であり、長年にわたって台湾と共同で、オーストロネシア語族の言語や工芸の活性化、伝統の競技・技術の保存に取り組み、成果を上げている。
2023年に両国は国交樹立25周年を祝い、気候変動対策基金に関する覚書を締結した。これにより、グリーンエネルギーやインフラ、防災警報システム、人材育成の分野において、協力・交流を進めることができる。
「以前は、マーシャル群島は気候変動の最前線にいると言っていましたが、今は『最前線の最前列』と言うべきです」と大使は言う。マーシャル諸島は世界でも数少ない「海面より低い国」であり、気候変動による海面の上昇で居住が脅かされ、家屋の倒壊や田畑の浸水、塩害による耕作不能も引き起こす。
「マーシャルには高山や移住できる島もなく、気候難民になるわけにもいきません。我々の文化は我々の土地と深く結びついているのですから」。そして、台湾という、気候変動への対処や対策をともに行動してくれる仲間がいることに深く感謝していると、大使は強調した。

マーシャル人は織物に長けている。写真の布の色や模様は貴族の織物であることを表す。
教育や医療での結びつき
マーシャルは国際社会でしばしば台湾のために発言してくれる。また台湾も、発展のためのパートナーとしてアメリカに次ぐ第2位の国で、多くの幅広い交流を進めている。
医療方面を見ると、マーシャルは首都マジュロに病院と民間のクリニックが数軒あるだけで、医療資源に乏しく、医師や看護師も多くはフィリピンやフィジーから来た人材が担っている。
2013年、マーシャルは台湾の衛生福利部双和医院と協力協定を結んだ。今年で11年目となる。患者の台湾での治療を手配したり、台湾衛生センターを現地に設置して、テーマを設けて不定期に医療団を派遣したりしている。また一定期間ごとに産婦人科や耳鼻咽喉科など異なる科の医師が派遣され、各医師が最低1カ月は滞在するというユニークな方法も採っている。
マーシャルの外科医、デビッド・アルフレッドさんは台湾での養成研修を受けて2023年に帰国し、マーシャルの衛生省に勤務する。ほかにも救急医学科、泌尿器科、内科の3人の医師が双和医院で研修を受けた。「双和医院には感謝しています。台湾の支援のおかげでマーシャル人は同胞のための医療に従事できます」と大使は言う。
台湾各県市との姉妹都市提携にも大使は力を入れ、すでに台湾の8つの県市と締結した。また教育方面では、奨学金によって台湾留学を奨励し、今年の12名を含む50名近くが現在台湾に留学している。両国大使館の協力で、嘉義大学、高雄大仁中学校、台北万福小学校などとも交流活動が行われ、互いの理解や友好を深めている。

写真は、豊富に採れるココナッツのオイルから作った石鹸やヘアコンディショナー。
旅やグルメのつながり
国交樹立20周年の2018年には両国間でビザ免除協定が結ばれ、互いの国民はビザなしで90日間滞在できるようになり、台湾の呉釗燮外交部長(外交相)はビザなしでマーシャルを訪れた初の台湾人となった。
今や台湾人はビザなしで気軽にマーシャルの各島の文化や風景を探索したり、各地のグルメや工芸を楽しむことができる。
カッティル大使のお薦めはダイビングだ。マーシャルには世界トップクラスのダイビングスポットがあるほか、海釣りやスピアフィッシングも可能だ。マーシャル人は生まれながらの船乗りであり、みな凄腕の漁師だと大使は言う。毎年7月第1金曜日はマーシャルの「漁師の日」で祝日だ。当日は釣り大会が催され、各種の釣りがマーシャルの重要なレジャーであることがわかる。。
忘れてならないのはマーシャル版「臭豆腐」だ。これは熟したパンノキの実を発酵させた食べ物で、台湾の臭豆腐のようなにおいを放つ。
ココナッツはマーシャルにとって重要な経済資源だ。果肉やオイルは重要な輸出品で、現地の人は「生命の樹」と呼ぶ。またパンノキとパンダナス(タコノキ)は、果実が主食となり、ほかの部位もさまざまな用途に利用される。木の幹からはカヌー、パンダナスの葉からは船の帆や巻きスカートが作られるし、葉でパンダナスの実を包めば50年間保存できるという。ある日、大使は台湾中部の山地で小型のパンダナスを見かけた。それは同じタコノキ属のアダンで、台湾のアミ族はその葉でアワを包み、チマキ状にして食べると知り、やはり共通点があると感じた。
「50年間も」と驚くと大使は頷いた。「これはマーシャル人の保存食なのです。長い航海への携帯も便利で、数時間は腹持ちします」。
首都訪問のほかにも、そこから船で小1時間ほどのアルノ環礁を大使は薦める。金曜日に出発して3泊し、月曜に首都に戻ればいい。アルノ環礁には宿はあるが電気やネット環境はない。青い海と白い砂浜が広がる中、日が出ると起きて日が落ちると休み、戸外で火を起こして調理するという、現地の人の暮らしにふれることができる。そこから近くのミリ環礁にも足を延ばせる。第二次世界大戦では戦場となった所で、海に潜れば戦闘機や軍艦の残骸が見られる。
ユネスコの文化遺産に登録されたビキニ環礁も重要だ。1950~60年代、アメリカはビキニ環礁を含む4つの環礁で幾度も核実験を行い、67発の原水爆を爆発させた。米国防総省はエニウェトク環礁に、爆発でできたクレーターを利用して核廃棄物を埋め立て、それを分厚いコンクリートで覆って幅115メートルのドームを作ったが、島々には取り返しのつかない被害がもたらされた。気候変動による海面上昇でもしドームが浸水すると、ドームが損傷して放射能漏れを起こす可能性があると、大使は指摘する。
政府や姉妹都市、学校などの間で交流活動を続けること、つまり「海洋を挟んだ2つの島国が互いをよく理解することは、固い絆を結ぶ礎となります」とカッティル大使は信じている。

伝統の編み込みで作られる美しい工芸品。

パンダナスの葉でその実を包むと長く保存でき、遠くに航海する際の携帯に便利だ。

花蓮県石彫博物館を参観するカッティル大使。

双和医院は不定期に医師をマーシャルに派遣している。1人の医師の派遣期間は1カ月だ。写真はマーシャルの患者を治療する泌尿器科の董劭偉医師。(双和医院提供)

原住民文化や民宿を紹介する書籍『原芸百工』が花蓮県の徐榛蔚県長から大使に贈られた。花蓮の台湾原住民族文化館の前で記念撮影する二人。(花蓮県政府提供)

タロコ族の伝統家屋を参観するカッティル大使。屋根の構造や台所を指し、「マーシャルの伝統家屋と似ている。ただマーシャルでは、屋根はたいていヤシの木で作ることが多い」と指摘した。

家族とともに太魯閣国家公園を旅行したカッティル大使。