詩と歌で、大地への
思いを呼び起す
呉晟の詩作は早くから知られていて、羅大佑や林生祥、胡徳夫などの有名シンガーが曲をつけて発表していた。またその一文は中学校の教科書にも収録され、多くの生徒の記憶に残っている。
呉志寧も父の詩が好きで、父の60歳の誕生日に未発表の詩に曲をつけて歌ったところ、それが評判となった。滅多に褒めてくれない母でさえこの歌に称賛を惜しまず、以来、呉志寧は父の詩でアルバムを出せないかと考えはじめた。
当時、文化建設委員会台湾文化館では呉晟の作品を整理し、デジタル収蔵し、音声化する計画が始まった。こういった動きに乗り、2008年には呉志寧が中心となり、呉晟の朗読と多くのアーティストの歌で構成されたアルバム「呉晟詩歌:甘い負荷」が発行された。
アルバム発売後、同年金曲賞の伝統と芸術音楽賞の授賞式において、主催者側は呉晟の朗読に呉志寧の歌を組合せるプログラムを組み、ここから、父子の共演の機会が増えていった。
呉晟は息子の音楽活動に入り込むようになり、録音にも参加することで、その音楽活動が安定していくのを見て、それまで音楽で生計を立てる息子への不安が次第に取り払われた。息子が音楽活動に自信を深めていく中で、父も二人だけの詩歌のアルバムを創作したいと思うようになった。
そんな中、呉晟の母、呉陳純の生誕百年となった2014年には、母の名から純園と命名した樹林園も大きく育ち、呉晟はここで母の記念音楽会を開催した。コンサートに合わせて呉志寧と2枚目のアルバム「呉晟詩歌:ピクニック」を出した。前回のアルバムとは異なり、「ピクニック」の編曲はすべて呉志寧が手掛け、父の詩はすべて祖母と大地への思いを込めた作品を選んだ。このアルバムには父の朗読と兄の子供たちの合唱も取り入れ、さらに20年前に録画した祖母のすでに黴の生えたビデオ・テープをデジタルで修復し、声を歌に挟み込んだ。こうして、呉志寧は四世代の声を巧みにアルバムに取り込み、アルバム全体に世代を受け継ぐ意義を盛り込んだ。
「母の記念もありますが、このアルバムとコンサートを通じて、農村の労働精神を称え、自然を大切にする環境作りを訴えたいのです」と呉晟は話す。台湾社会は開発が進み、価値観は政治や経済に集中しているが、この詩歌のアルバムにより、農村生活にかつてあった人と事物の単純な美しさを呼び覚まそうとしている。
詩人とアーティスト、父と子の感動的な朗読と歌声について、呉晟は台湾唯一の親子バンドだと笑う。呉志寧は父の詩を愛し、こういった活動ができることを本当に幸運だと感じている。親子での活動を大切に思い、また息子の音楽があって、父の詩も若い読者に届くのである。呉晟と呉志寧は、創作の道を共に歩み続ける。この親子バンドが解散することは決してないだろう。
父が詩を書き、息子がそれを歌う。二人はともに創作の道を歩んでいく。