唐詩、宋詞、元曲はすべて中華文化の古典であり、中国語芸術の清華だが、ネットやスマホに慣れてしまった現代の小学生はなかなか興味を持てない。こうした生徒たちの学習意欲を高めるために、桃園市の楽善小学校の陳維士先生は、李白を現代によみがえらせ、フェイスブックに登場させた。これによって生徒たちの態度も180度転換したのである。
李白のフェイスブックを開くと、まず「友人と一緒に酒を飲んで楽しかった!孟浩然と。一時間前」とある。そして杜甫が「いいね!」を押しており、「酒を飲むのに私を誘ってくれないとは、ひどいじゃないか」とメッセージが入っている。
左半分のプロフィールを見ると、生年月日は西暦701年、仕事は唐朝の翰林学士、現在は詩人、友だちは杜甫、孟浩然、呉指南などとある。
これらは実は楽善小学校5年生が作ったものだ。「詩人は他にすることがないんですか。なぜ詩ばかり作っているんですか」という生徒の質問から、陳維士が思いついたのである。
李白との約束
「食事をしたり、どこかに遊びに行ったりしたら、フェイスブックに書きますね。フェイスブックがなかった唐の時代に、人々は自分の方法で生活を記録していたのです」と陳維士は説明しながら、準備したフェイスブックのフォーマットを取り出す。「では、李白がフェイスブックをやっていたとしたら、どう使うでしょう」と問いかけると、生徒たちは最初は戸惑っていたが、間もなく作業に没頭していき、笑い声とともに李白のフェイスブックが次々と誕生した。
このように、学び方を変えるだけで大きな効果が得られ、李白のフェイスブックに続いて、陳維士はさまざまな方法を編み出した。昔の人を真似して唐詩を書き、手作りの飛び出す絵本を作り、最後は「李白との約束」をテーマに作文を書かせた。生徒たちの意欲は非常に高く、
陳維士も驚いたと言う。
フェイスブックの活用は、中学の台湾史の先生が、鄭成功や沈葆楨などのフェイスブックを作って教えているのを知って参考にした。ちょうど唐詩を教える時期になり、李白の「早に白帝城を発す」は、時間や場所、情景や風景などが描かれているのでフェイスブックにふさわしいと考え、この授業方法を取り入れることにした。
四部からなる「李白との約束」の授業を終えると、陳維士は白居易と司馬光が詩を詠み合い、酒を飲んで楽しんだ「真率会」を再現することにした。堅苦しい作法や豪華な料理などはなく、「簡朴真率」であることを強調した会である。
楽善小学校では酒の代わりにお茶を用意し、生徒たちが順番に壇に上って自分が作った詩を読み上げる。校長先生が審査し、高い評価を得るとお茶を一杯飲めることにした。最初は恥ずかしがっていた子供たちも演技を楽しみ始め、傍で団扇を仰いだり、お茶を差し出したり、
衛兵役を務めたりする。
さらに水中撈月(池の中で黄色い月の球を探す)や貴妃捧硯(檀上で字を書く人のためにチョーク入れを捧げ持つ)といった李白と関わる逸話を演じれば、生徒たちに深い印象を残すことができる。「試験ができるかどうかは分かりませんが、生徒たちはこれらを一生忘れないでしょう」と陳維士は言う。この後の授業は古代文明に入り、彼は映画『トゥームレイダー』を模して宝探しのゲームを考案した。生徒たちにピラミッドや兵馬俑に触れさせ、古代帝王の権威と神秘を感じさせるというものだ。
こうした授業は楽しくて効果も上がるということで、マスコミが報道すると、李白のフェイスブックは大人気となり、他の学校の先生も同様の方法を導入し始めた。「他の先生は私より良い授業をしています。私の創意を導入してくれるのはうれしいことです」と陳維士は言う。
学習のカギは生活体験
フェイスブックを使った授業はどんどん増えており、今年の大学学科能力測験(入試の一つ)では、スマホの画面をスワイプしている李白のイラストを見て文章を書くという課題が出され、最近は成功高校の歴史教師が試験にスマホを登場させた。生徒に理解させるには現代の生活経験を取り入れることが重要だと多くの教員が感じている。
授業では難しくても、生活の中ならできることもある。陳維士は、ある生徒を例に挙げる。
この生徒は、算数で百桁の加減をよく間違えていたが、ある時、生徒たちがカードで遊んでいるのを見ていたら、「僕のこのカードの攻撃力は2500、魔法で2倍になるから5000。こっちが800点多いから僕の勝ちだね」と、すらすらと計算しているのである。そこで陳維士は、流行している密室脱出ゲームに学科の知識を取り入れてみることにした。
陳維士は教室を密室に見立て、生徒たちが順番に中に入って謎を解かなければ出られないようにした。
質問のカードには、不思議な文字が書いてあって読めないが、よく注意するとそれらは注音符号(中国語の発音記号)に対応していることがわかり、ようやく質問を読むことができる。質問の内容は、四文字熟語のしりとりや英単語、地図からの地名探しなどである。一問正解すると一つの数字が与えられ、集めた数字を並べてロッカーのカギを開けると、密室を抜け出す鍵が入っている。
このゲームには国語、算数、英語、自然科学、社会の五教科の基礎学力を取り入れてあり、対応力や問題解決能力も試される。途中で「もうやめる!」と言い出す子供もいれば、先生に甘えてヒントをもらおうとする子供もいる。
「そんなに難しくないから、ゆっくり考えてみなさい」と、陳維士は穏やかに威厳をもって生徒たちを励ます。
教室内で知恵を絞って考えているのは子供だけではなく、親もいる。実はこの日は参観日で、陳維士は親にも子供と一緒にチャレンジするよう促した。子供が学校で学んでいることを理解してもらい、親子の距離を縮めるためでもある。
教室の外にある、もっと大切なもの
不惑の年に近い陳維士は、教育に対してさまざまなイメージを抱いている。
「中学に入ると、道を踏み外してしまう子供が少なくありません。根がしっかりしていないからです」と陳維士は言う。小学生の場合、まだ権威的な態度で教えても子供たちは素直に聞くが、それは根本的な道ではないと考える。「健全な生活環境と学習態度こそカギになります」と言う。
中原大学機械学科出身の陳維士は、在学中に奉仕団のリーダーとして活動するうちに、自分は子供が好きで、子供たちとのコミュニケーションの能力もあると感じ、教育課程を履修して教員資格を取得した。
学校の現場では、少なからぬ親が子供を学校に任せきりにして自分は何もせず、学校から親に連絡が取れないことさえある。「本当のモンスターペアレントは、学校に文句を言う親ではなく、教員にも会おうとしない親です。こういう家庭の子供こそ、道を踏み外しやすいのです」
教育は成績や点数の問題ではなく、非常に長いプロセスだと陳維士は考える。「今この教室にいる仲間はみな同じだと思うかも知れませんが、6年後には台湾各地に分散して違う学科で学んだり、働いたりしているのですよ。いつまでもクラスメートと同じだと思ってはいけません」と陳維士は生徒たちに語る。子供たちに学習意欲を持ち続けてほしいと願うからだ。
意欲的に学習を続けていけるかどうかは親の態度にかかっていると考える陳維士は、熱心に家庭訪問をするほか、学期末には「親の試験」も出す。質問は、子供の年齢や何年何組に学んでいるか、担任の先生の名前といった簡単なものから、今年算数で学んだ章の名称や、クラスで一番仲のいい友達の名前などである。
「本当は子供から親へ問題を出してほしいのですが、親に怒られるから出来ないというので、私が代わりに出しているのです」と言う。彼自身、親が協力してくれないのではないかと心配だったし、少なからぬ生徒も親は断ると考えており、中には「絶対怒るから」と嫌がる子供もいた。
ところが、実際にやってみると思いがけず良い反響が得られたのである。大部分の親が協力的に質問に答えてくれ、成績もよかった。「たぶん、こっそり親に正解を教えてあげた子供も多いと思います」と陳維士は笑う。
もちろん点数は重点ではない。大切なのは、親がもっと子供のことを理解しようとすること、また、普段はあまり子供と話をしない親に会話の機会を与えることなのである。生徒から見れば非常に簡単な質問もあるが、親が答えられなければ子供は傷つく。いずれも子供にとっては非常に身近な事柄ばかりだからだ。
この試験の後、多くの親が陳維士にお礼を言うために学校を訪ねてきたという。この試験のおかげで、知らない間に子供との距離が離れていることに気付かされたというのである。
創意を凝らして授業を変え、教室から教室の外へ、学校から家庭へと学びを広げていく。陳維士はこれからも情熱を注いでいけば、子供たちの目はますます輝いてくると信じている。
陳維士と生徒たちの創意によって、李白が時空を超え、フェイスブックに登場した。
唐代の詩人が開いた「真率会」に倣い、生徒たちが実際に昔の人の生活を体験して詩を発表する。(陳維士提供)
唐代の詩人が開いた「真率会」に倣い、生徒たちが実際に昔の人の生活を体験して詩を発表する。(陳維士提供)
勉強の中に楽しさを取り入れれば生徒の学習意欲が高まり、集中力も身につく。
テレビを見ていてもスマホを使っていても、陳維士は常に生徒のことを考え、授業のアイディアを探している。
楽善小学校は一輪車を推進している。陳維士は一輪車を一項目とする卒業トライアスロンを考案し、卒業するためには完走しなければならないことにした。