実用的だから売れる
林芳洲によると、かつて書包大王の評判は「永久に修理サービスします」というところから来たという。そして25年前に彼が店を継いだ時は、これを少しだけ変えた。「永久に修理が必要ない商品」を提供するというのである。
そこで彼は、重みで糸が切れやすい肩ひもをパラシュートのベルトと同等のナイロンに変え、肩ひもと本体を結ぶ銅のリングを強いエンジニアリングプラスチック製に変えた。「ストラップ1本で原価が数十元になります」と言う。
改良した帆布カバンは、新旧の顧客から好評を博して人気商品となった。台湾だけでなく香港や大陸からの観光客も、ガイドブックを手に訪れ「台湾らしい」お土産として買っていく。
これを「レトロブーム」と呼ぶ人もいるが、林芳洲はそれは人気の理由の一部に過ぎず、重要なのはやはり「丈夫で実用的」な点にあると考える。
「今年は不景気ですが、うちの商売には影響していません。数年前の台風で高雄が洪水になった日も、わざわざカバンを買いに来るお客さんがいました。単に『レトロ』というだけでは、台風の日にカバンを買いに行くという誘因にはならないはずです」と言う。
多くの人が日本の「一澤帆布」と書包大王を比較することについて、実際に京都に見に行ったことのある林芳洲はこう話す。一澤帆布が色も形もさまざまなバッグやエプロン、帽子など多様な商品を開発出来るのは、日本社会が伝統的に職人芸を尊重しているからだ。織り、染め、金属素材まで、古来の方法を守る腕の良い職人がいるため、こうした手工芸がいつまでも守られるのである。
「残念ながら台湾にはそういう環境はなく、私たちが自力でやるしかありません。協力してくれる川上の職人がいないので、多様な帆布製品を開発するのは難しいのです」
林芳洲は5年後には退職したいと考えているが、現在のところ、子供も家族もこの商売を受け継ぐつもりはないという。手作りの帆布カバンが将来も受け継がれていくかどうかが不安だと正直な気持ちを語る。
「考えてみてください。プロの経営者に依頼することもできますし、興味のある人に店を売ることもできます。何年かしたら転機が訪れ、もっとふさわしい人に任せられるかも知れません」と話す林芳洲は少し寂しそうに言葉を続けた。「手作りの学生カバンが、このまま消えてしまうのは残念すぎます」
かつて高雄市長として高い業績を残した謝長廷氏だが、昨年の総統選挙では、高雄市での得票数は馬英九氏のそれに及ばなかった。林芳洲さんは高雄市民は無情すぎると感じ、自社のカバンに「無情の都市」の文字を入れ、いつも持ち歩いている。
今や書包大王の名は広く知られているが、地道な経営は昔と少しも変わらない。店内には自社製品の他に、他社のリュックや旅行カバンも並んでいる。
写真左から、書包大王のストラップと帆布。ストラップにはしっかりと幾筋も縫い目が入り、ぬくもりのある銅のボタンが取り付けられる。最後に書包大王のラベルが縫いつけられる。
写真左から、書包大王のストラップと帆布。ストラップにはしっかりと幾筋も縫い目が入り、ぬくもりのある銅のボタンが取り付けられる。最後に書包大王のラベルが縫いつけられる。