文化の懸け橋
2021年9月下旬、久々によいニュースが舞い込んできた。NSOが海外の芸術顧問であった準‧メルクル(Jun Märkl)と契約を交わし、2022年からNSOの音楽監督として招聘することになったのである。郭玟岑が冗談交じりに語る。「1016日間の選考と、多くの人の努力が実って、国家表演芸術中心‧董事長の朱宗慶がついにこの契約にこぎ着けました。いまは楽団の事務方も真剣に英語の勉強をしています」
メルクルは高い実績をもつ。ヨーロッパの5つの楽団を率いた経歴があり、また、欧‧米‧アジアの十数の楽団と50を超えるアルバムを録音し、フランス芸術文化勲章‧シュヴァリエを受章している。ドイツと日本にルーツを持ち、文化の懸け橋の役割を担ってきた。コロナ禍の間もNSOのために数度来台している。台湾の地から、伝統文化とクラシック音楽の枠を超えた涵養と直感を得るためである。郭玟岑はメルクルを各地に案内している。オランダ人が建てた台南のゼーランディア城の城塞跡(安平古堡)、高雄では南島語族文化芸術と世界とのつながりを探り、駁二の日本時代の旧埠頭も訪れた。故宮博物院で国宝を見て、陽明山で硫黄の匂いを嗅いで「台北の」においを感じ、大稲埕で熱々の麦焦がしを食べた。台湾の過去を知るために、Netflixで『斯卡羅(SEQALU: Formosa 1867)』も見た。台湾プラスチックの第6ナフサプラントを見るために、西螺大橋にも上った。
「どうしたら異なる音を融合し、唯一無二の音楽の言葉にすることができるのか、それが新監督の課題です」郭玟岑は期待に胸が高鳴ると言う。リヨン国立管弦楽団を長年リードしたメルクルは、フランスの音楽の特色を台湾に取り込みたいと考えているという。「体系と構造が明確なドイツやオーストリアの作品に、フランス音楽の光と色を融合させるのです」
NSOは新たな季節に、新たな芸術の要素を注ぎ込むことで、音楽のスタイルはより幅広く、テクニックはいっそう確かなものになるだろう。そして新たなビジョンを手に入れ、台湾の温かみと確固とした音色を、世界に届け続けていく。
歴代の音楽監督の努力の下、NSOは世界へと羽ばたいて数々の記録を塗り替え、アジアの多くのオーケストラの羨望の的となっている。