愛のために台湾へ
当時、まだ東京工業大学で機械工学を学んでいた水沼さんは、同じ蕎麦屋でアルバイトをしていた台湾からの留学生、陳麗如さんと出会った。二人は3年の交際を経て結婚を決めたが、陳さんが日本で就職するより、理工系の自分が台湾で仕事を探す方が容易だろうと考え、台湾で家庭を持つことに決めたのである。
だが、双方の親からは、まず資金を貯めてから結婚するべきだと言われた。そこで水沼さんは東京に残ってシステム･インテグレータの会社に就職し、陳さんは台湾に戻って中華航空で働いた。こうして2年間の蓄えをもって結婚することとなった。
高学歴で、ソフトウェア開発の経験もある彼だが、台湾に来てからは、なかなか満足できる仕事が見つからなかった。そこでまず、1年をかけて中国語をマスターすることを決意する。
「その一年は、妻に養ってもらいました」と言うが、陳麗如さんは彼の努力を称賛する。「毎日、バスを乗り継いで汐止に住む私の叔父に中国語を習いに行き、すごく上手になりました」と言う。そして翌年、当時日本最大の半導体メーカーだった東芝の台湾支社に就職した。
かねてから日本企業の海外支社の雇用体系は2種類に分かれる。台湾の場合、日本から来た駐在員が本社とのコミュニケーションを担当、台湾の技術者が現地の顧客とのコミュニケーションを担当するというものだ。そうした中で、高度な技術スキルを持ち、中国語もできる水沼さんは、両方の役割を果たすこととなった。
流暢な中国語でエレクトロニクス産業のトレンドや市場の動向をシェアする水沼仁志さん。（水沼仁志提供）
