雑草豊かに茂る
「五股湿地はとても素朴な湿地です」と言うのは、地元蘆州に住み、五股湿地で鳥類観察を30年以上続けてきた陳勇明さんだ。疏洪道生態保護連盟の副事務局長でもある。五股湿地には看板となるようなエリアもなく極めて平凡だが、訪れる価値は充分にあるという。
実際はどうか、五股の町の高層ビルに上って湿地全体を眺めてみると、ヨシの原、潅木帯、池や水路などで構成されているのがわかる。八里左岸のような壮大な風景も、華江雁鴨公園のような多数の水鳥が群れる光景もなく、また竹囲紅樹林のように「世界最大のマングローブだけの林」といった呼びものもない。極めて素朴というのが第一印象だ。
湿地は広いので自転車で行くのが最適だ。北から南へ五つのエリアがあり、それぞれ異なる風情を見せる。
最北端の淡水河辺にある疏洪生態公園では河口の生態が観察できる。引き潮の際には餌を探す鳥たちの優雅な姿や、暖かくなれば無数のトビハゼの跳ねる風景がある。ここからは、かつて川幅拡張工事のあった辺りも遠望でき、工事によって海水が浸入し、淡水河のハマグリやハナシジミ、スズキ、アユなどの魚介類が大量死した出来事に思いを馳せることもできる。
河口から南へ進むと、荒野保護協会が育てた沼沢がある。元は単なる草地だったのが、近くに「微風運河」が作られ、環境破壊が進んでしまった。そこで協会はこの区域を生物生息地として確保し、池を幾つか掘って水を引き入れた。今では多くの生物の餌場であり、住みかとなっている。引き潮時には、赤いハサミを振りかざすシオマネキがあちこちに出現する。しゃがんでよく見れば、彼らが餌をとるさまや、巣穴の入り口を補修する様子(満潮時には入り口をふさぐ)が観察できる。
運がよければ、この地に定住するカワセミも見られる。さっと水面に急降下して魚を捕らえるさまは、「魚狗」という別名もうなずける。青や緑、褐色の鮮やかな姿がとりわけ目を引く。
圳;辺公園へ行くには疏洪一路を渡らなくてはいけない。車の激しく往来する道だが、脇の草地にはタイワンヒバリやツメナガセキレイが餌をついばむ可愛らしい姿ある。野花も点々と咲き、傍らの喧騒なぞどこ吹く風といった感じだ。
自転車道とは広いヨシ原で隔たれた圳;辺公園は、一般の自転車が入ってくることはなく、静かで素朴な自然が広がる。
ここでは橋の上から、五股湿地を貫いて流れる塭;仔圳;が見渡せる。水がどんよりと黒く濁るのは、上流の工場が長年汚水をたれ流してきたことの証だ。陳勇明さんによれば、荒野保護協会は数年前にヨシによる水質浄化を試みたことがあったが、面積が足りず成功しなかった。かつて洲仔尾の子供たちが塭;仔圳;を水遊びの場としていたことを思うと隔世の感がある。
五股湿地では水辺で餌を探したり求愛したりするカニの姿がよく見られ、子供たちに人気がある。目の飛び出たトビハゼは縄張り意識が強い。