人気の飲食観光学科
職業高校では進学に力を注ぐだけでなく、学科創設においても人気を追う傾向がある。
職業高校の学科には機械、動力機械、電機電子、化学工学、土木建設、商業管理、家政、ホスピタリティ・観光、農業などの15群の下に85科ある。しかし、全体を調整する制度がないため、各校が人気やブームを追うこととなり、供給過多の学科もあれば、学生がほとんど集まらない学科もある(51ページのグラフを参照)。
鄭慶民によると、現在はホスピタリティ(レストラン・観光)、商業管理、電機電子などの分野の学生が多く、しかも供給過多の現象が起きている。その一方、食糧やエネルギー、海洋資源などの重要な基礎分野、例えば水産部門の漁業科や水産養殖科、海事分野の航海科やタービン科、農業分野の畜産保健や農場経営などには学生が入ってこない。
智光商工高校の林埔生校長は、レストラン科に人気が集中し過ぎ、飽和の危機に直面していると言う。この学科はカリキュラムが楽しく、達成感が得られやすいことから人気がある。同校では1学年9学級、3学年を合わせると29学級もある。今年同校は、市場のニーズに応えてマルチメディア科と観光事業科を新設するという。
現在、全国の職業高校1年生の生徒総数は12万人余り、ホスピタリティ科の生徒は1万1851人で、商業管理分野に次いで多く、労働委員会が試算した第1四半期の求人数4569人を大きく上回る。
逆に水産や海事分野の生徒数は全国でわずか400人ほどで、苦労を嫌う生徒たちの態度は明らかだ。
だが、嶺東科技大学の徐昊杲学長は、これは市場の需給によって生じる過渡期の現象で、学生たちが市場の飽和と就職難に気付けば方向は自ずと変わると言う。例えば10年前に最も人気のあった幼児保育科は、今は少子化の影響で人気のない学科となっている。
社会に必要な仕事
技術・職業教育が大学進学に力を注ぐことに対し、産業界からは不安の声も出ている。
ランディス台北ホテル元董事長の厳長寿は著書『教育応該不一様(教育はこうあるべきではない)』の中で次のように述べている。「台湾社会は基礎技術空洞化という窮状へ向いつつある。例えば航空機の整備士、水道電気工事技師といった台湾社会の基礎を成す堅固な技術力が、誤った教育政策と学校の格上げ競争によって空洞化していくのだ」と。
技術・職業系の生徒たちが進学を目指すようになったことについて、台湾師範大学機電学科主任の鄭慶民は、社会の進歩に連れて、求められる技術のレベルも高まっていくと言う。例えば旋盤の場合、以前は個人の熟練度が重視されたが、今はCNC(コンピュータ制御)を用いるため、プログラムが書けなければならない。自動車整備などの機械工技術も今は大部分がコンピュータ制御なので、手や衣服が汚れることもない。
「問題は、機械が取って代わることのできない作業が少なからずあることです」と言う。鄭慶民は、台風の後にその問題が明らかになったと言う。
台風でダムに土砂が堆積した時、家庭用水供給のために浄水場では巨大な配水管を設けなければならなくなったが、その工事が遅々として進まず、市民の不満が高まった。問題は巨大な配水管の溶接ができる人材が足りないことにあった。緊急に中船公司からベテラン溶接技術者を動員したが、それでも不足は補えなかったのである。
人材は、必要な時になって養成しても間に合わない。
「台湾は情報通信関係の人材は豊富ですが、板金や溶接、鋳造、金型などの基礎人材が不足しています」と鄭慶民は言う。これらは社会に必要な人材である。また、全ての生徒が大学進学に適しているとは限らない。
技術・職業教育は、学校を卒業するとそれで終わりというものではない。就職してからも職業訓練を続け、時代とともに進歩していくものだ。
永遠に第二の選択
少子化時代を迎えて全ての子供が親の宝物となったことで、基礎技術の流失が加速する可能性がある。教育部統計処の試算では、中学一年の生徒数は現在の31万人から来年は2万6000人減り、15年後には半分まで減少して17万人になる。その時点で職業高校は構造的な危機に直面する可能性がある。
十年以上後のことは別としても、間もなく義務教育は12年になって高校進学に受験の必要がなくなる。これにはどう対応すればいいのだろうか。
教育には適性が重要だが、学術を重んじ、技術を軽んじる社会において、職業高校は常に第二の選択肢であった。
ある母親は、息子から幾度か職業高校へ進みたいという希望を聞かされたが「ノー」と言い続けてきた。実は、この子供は理論よりも手を動かして何かをするのが好きなことはよく分かっている。だが、成績も悪くないので「進学できるのにしないのは惜しい」と思い、普通高校から大学への道を進んでほしいと考えている。
これは「学業こそ王道であり、職業高校はそれが無理な時の選択」という今の一般の人々の考えそのものである。
技術・職業教育が相対的に弱い立場に置かれているのは、学生の質の面でも、その家庭の経済状況においても同じだ。
貧しい家庭の生徒のために、教育部では2014年に高校学費無料化を実現する前に、2010年から職業高校学費無料化プランを推進してきた。世帯の年間所得が114万元以下の職業高校生徒の学費は全額政府から補助される。私立智光商工高校の林埔生校長によると、同校の生徒の9割近くが世帯年収114万元以下という条件を満たしており、ここからも職業高校生徒の家庭の状況がわかる。
1996年、教育部は職業性向分化の決定を先送りし、進路を決めるのを高校2年にするために、普通高校の開設を奨励し始めた。それ以降、1997年には204校あった職業高校は156校まで減り、普通高校は228校から335校まで増えた。これで高校が義務教育化されて入試がなくなると、生徒は普通高校に集中し、職業高校は存続できなくなるのではないだろうか。
鄭慶民によると、科技大学と技術学院のカリキュラムは9割が一般の大学と同じで、技術・職業教育の特色が打ち出せていないという。また、学歴主義社会であるため、修士・博士課程が次々と設けられている。「技術・職業教育が普通教育化し、職業高校の存在の意義が疑われます。さらに多元入学プランによって普通高校から科技大学への進学の道も開け、高等職業教育の専門性が失われています」と指摘する。
産学協力
将来に備え、技術・職業教育は中学の段階まで根を広げ、生徒たちの適性探索に協力している。教育部中部事務所の黄静儀によると、大部分の中学教員は職業教育体系の出身ではなく、生徒たちも職業高校について知らないため、中学と職業高校の協力によって、技術・職業教育に対する生徒たちの認識を深めることが重要だという。
技職司の李彦儀司長によると、このプランは7~9年生で実施し、技術・職業系の進学ルートと多元的発展への理解から始め、適性試験や体験学習を行ない、「中学技芸班」を設けて、興味のある生徒は週に3~14時間、職業高校で技能課程を受けられるようにしている。
このプラン策定に携わった嶺東科技大学の徐昊杲副学長は、ライフプランや技能カリキュラム、職業高校訪問などを通して、中学生が真に自分の適性と興味を理解でいるようにしたいと考えている。技芸班に参加している中学生は現在までに、のべ5万人になる。
この他に、技術・職業教育を本来の役割に戻すため「実用技能課程」「産学協力教育班」「産業特殊需要科目班」を設けて3年間の学費免除を誘因とする。技能実習をメインとした課程で就職力も高められる。
さらに、航海や機械加工など技術者不足が深刻な産業、クリーンエネルギーや観光などの六大新興産業については、2006年から職業高校と技術系大学と企業による協力が始まった。例えば、高雄工業高校と高雄応用科技大学、高雄精準機械が協力し、生徒は交替で学校と企業を行き来して学び、生活手当も得られるというものだ。
技術・職業系の将来
1974年に我が国最初の科技大学――台湾工業技術学院が設立されて以来、技術・職業教育と普通教育はダブルトラックとなった。高等教育ではダブルトラックが合流に向う中、職業高校のポジションはなかなか明確になっていない。
2001年の「教育改革検討会議」において、職業高校廃止の声が上がった。現在、中南部の一部僻遠地域の職業高校で生徒数が600人の最低数に満たない状況が生じており、水面下で「廃校制度」の制定が求められているが、具体的には何も示されていない。
教育部技職司の李彦儀司長によると、学校の廃止は、生徒の教育を受ける権利、教師の働く権利などにも関わる大きな問題なので、主管機関としては職業高校の向上と均質化などを通して全面的に教育の質と学習効率の向上を目指す他なく、廃校を命ずることはできないと言う。
台湾師範大学機電学科の鄭慶民主任は、職業高校はこれを機に大改造を行なえば、将来が期待できると考える。生徒が就職を希望していないなら、科を分ける必要はないと鄭慶民は提案する。職業高校の生徒の多くはまだ自分の適性や興味が明確ではないので、細かい科に分けるのではなく、大まかな類別にして多くの分野に触れることで適性を見出すことができる。人気はないが重要な科目については国の政策が必要だと言う。
職業高校は質を高めていくのか、それとも過去のものとなってしまうのか。その将来の行方はこの数年の行動にかかっている。政府の政策と学校の運営、親の対応、そして生徒自身の自覚と判断が決め手となろう。
危機ではあるが、これは大改造のチャンスでもある、と鄭慶民は考えている。