属地主義
しかし、品種登録は「属地主義」を採用しており、販売する地域で登録していなければ保護されない。登録をしていない国で無断で栽培販売しても権利侵害にならないということだ。
台湾は国連メンバーではないため、UPOVにも加盟できず、かつては台湾の育種者が海外で品種登録をしたいと思っても、その術がなかった。しかし近年は二国間協議を通して、日本やEU、アメリカ、オーストラリアなどの国々で品種登録の扉が開かれ、相互に相手の優先権を認めるようになった。
「登録してはじめて保障される」のだが、植物の育成者権には限界もある。
一つは農家が自分で使用する場合である。郭華仁によると、農家が自家用に種子を残すのは大昔からの伝統だ。食糧確保のために各国政府もこれについては免責を認めている。EUではジャガイモなど、20種以上の食糧作物と油脂作物については免責としている。台湾では「水稲」だけにのみ免責が認められており、農家は自分で使用できるが、果樹や花卉は免責範囲ではない。
また、非営利目的、研究や育種を目的とする場合も免責とされる。
一方、法令は育種者に育成者権を付与するが、その権利が侵害され、海賊版農産物が出現した時には、権利者は自分で闘わなければならない。
では、権利侵害者をどのように付き止めるのだろう。
蒋麗児によると、切り花の場合は、必ず台湾の北部・中部・南部の5ヶ所にある卸売市場で取引されるため、記録から侵害者を付き止めることができるという。しかし、正規の市場以外で取引されることの多い鉢物はやや難しい。福埠実業がライセンスした鉢物には、鉢に必ず正規の身分を証明するシールを貼っている。
共存共栄を求めて
登録した品種の権利が侵害された時、裁判に訴えると費用も時間もかかるため、一般には和解などの方法を採ることが多いが、中には何も手を打てない人もいる。
2003年、育品生技公司は台湾で初めてコチョウラン「育品珍珠」の品種登録をした。「白地に紫色の斑点」が美しい新品種だが、その董事長の張能倚によると、今では至るところでこの品種が栽培され、売られているという。なぜ自分の権利を守らないのかと問うと「みな友人ですから、どう言えばいいのか」と苦笑するだけだ。
こんな例もある。民間の育種者・郭樹立が生み出したコチョウラン「ゴールデン・エンペラー」は、台湾の品種としてアメリカで初めて品種登録(1981年)されたが、利益を上げることはなかった。
ゴールデン・エンペラーは12センチにもなる大輪のコチョウランで、花が開くほどに黄色が濃くなるという特性があり、アメリカで大賞(1983年)を受賞し、17年間の育成者権も取得した。
当時、郭樹立は300万元の高額で母株と17株の苗を購入し、クローニングによって大量の苗を育てた。その苗に一度は1株1万2000元の値がついたが、当時の台湾では育成者権の概念が普及していなかったため、大量に複製されてしまい、結局価格は大暴落した。アメリカでの品種登録も、登録名と受賞した名称が異なるというミスがあって保護を受けることが難しく、大きな損失となった。
20年来、台湾で唯一の登録品種をめぐる訴訟は、福埠実業が2006年に訴えたカスミソウの権利侵害事件だ。
蒋麗児によると、彼らが輸入栽培したカスミソウのユキコという品種が、予測より多く市場に出回っているのに気付き、契約農家を訪ねると、無断で栽培している人がいることがわかった。そこで内容証明郵便を送ったが、その農家は栽培を止めなかったため提訴し、結果、無断栽培した農家は栽培した花をすべて廃棄処分し、百万元の権利金を支払うこととなった。
「育成者権は育種者の権利であり、生産者の機会でもあります」と蒋麗児は言い、その間にはさまった代理商は気まずい立場にあると言葉を続ける。間に立つ者として、可能な限り両者の権利のバランスを取り、研究に取り組む育種者の権利を守りつつ、量を制限することで価格を維持してこそ生産者の利益も守ることができる。こうして各方面が利益を得られる環境を創り出してこそ、次々と新しい品種を楽しめるのである。