東京五輪バドミントン男子ダブルスの決勝で、王斉麟・李洋ペアは中国を相手に20対12のマッチポイントを迎えていた。李洋が打ち返した球はライン付近に落ち、映像判定の結果「IN！」という声が上がると会場からは歓声が沸き起こり、台湾は中国にストレート勝ちした。五輪の男子ダブルスで台湾ペアがベスト8に入ったのも初めてで、さらに金メダルを獲得したのである。

だが、この素晴らしい成績は偶然のものではなかった。二人は家族のサポートの下、幼い頃から厳しい練習に耐えてきた。また台湾の長年にわたるバドミントン選手育成の成果でもある。

東京五輪バドミントン男子ダブルスの金メダルに輝いた李洋（左）と王斉麟。台湾のスポーツ界に新たな記録を打ち立てた。（教育部体育署提供）

夢を追う道での出会い

王斉麟の両親はもともとバドミントンが好きで、夫妻はコートで出会い、王斉麟を妊娠していた時にもプレーをしていた。父親の王偉建は、息子は26歳だが、バドミントン歴は27年になると言って笑う。

王斉麟は幼い頃から両親とともにバドミントンに親しみ、早くから国の代表選手になりたいと思っていた。そこで王偉建は彼をバドミントンの強い民権小学校に入れ、五輪レベルのコーチに依頼して休日に特訓を受けさせていた。

同じくバドミントン好きの父親を持つ李洋だが、彼は子供の頃、太っていたため父親にスポーツを強要されたのだと笑う。テンポが早く、走り続けなければならないバドミントンに音を上げ、やめたいと思ったこともあるが、中学に入ってから、このスポーツが好きなことに気付いた。

中学2年になった時、父親の李峻淯は彼を中山中学の体育学級に転校させ、この時に王斉麟と李洋は初めて出会った。

一歩先にバドミントンに取り組んでいた王斉麟は小学生の時にすでに好成績を上げていた。中学では男子ダブルス学校代表のトップ選手で、各地の大会で勝ち続けていた。李洋にとっては、ずっと先を行く目標とすべき存在だった。

李松遠･総監督（一番左）の指導の下、陳宏麟（一番右）と李洋、王斉麟が力を合わせて金メダルを勝ち取った。（林格立撮影）

それぞれの努力

台湾の実業団バドミントンの強豪で、40年の歴史を持つ土地銀行チームは、中学で活躍する選手をスカウトしている。土地銀行と協力関係にある能仁家商職業高校に優秀な生徒を進学させ、高校生メンバーを育成してきた。周天成や王子維など多くの現役選手もここに属し、長年にわたって台湾のバドミントン選手を育てている。

王斉麟は中学卒業時にスカウトされ、能仁家商高校に入ると同時に土地銀行のチームに入った。そして2012年、高校2年の時に全国のランキングトーナメントで甲ランクに昇格し、同年のアジアジュニア選手権で2位に入るなど、世界的にも頭角を現し始めた。

李洋はもう一つのバドミントン強豪である基隆高校に進んだ。だが試合で負けることも多く、なかなか壁を乗り越えることができなかった。バドミントンをやめて台北商業大学に入って経営学を学ぼうとも考えたが、父親から「そんな才能はない」と言われたことがきっかけで逆に闘志を燃やし、2013年に全国ランキング大会で乙ランクトップとなり、甲ランクに進むことができた。

土地銀行に入った王斉麟は成績は良かったが、ペアを組んでいた選手が引退してしまうなど、なかなか特定のパートナーとペアを組むことができずに悩んでいた。この時、監督の李松遠が陳宏麟を連れてきた。経験豊富な陳宏麟は男子ダブルスの世界ランキング8位、混合ダブルス5位の成績まで上り詰めたこともある。彼は国際大会での経験をすべて王斉麟に授け、2014年にこのペアで全国ランキング大会の1位となった。

一方の李洋は合作金庫のバドミントンチームに入り、2015年、小学校から高校まで先輩だった李哲輝とペアを組んだ。二人は全国ランキング大会、マカオオープン、フランスでのBWRスーパーシリーズなどで勝ち続けた。

李洋と王斉麟の素晴らしいプレーは台湾の精神を表している。

夢にかける

2018年、王斉麟と陳宏麟は世界選手権の銅メダルに輝き、同ペアの世界ランキングは4位に入った。李洋と李哲輝もアジア大会で銅メダル、ランキングは世界7位になった。両ペアがピークに達したこの年、大きな変化が訪れる。

2018年、多くの選手たちがオリンピックの出場権を目指して努力してる中、32歳の陳宏麟は肩と首の古傷に苦しめられ、オリンピックに出場できたとしてもメダル獲得は難しいだろうと考えていた。そこで李松遠監督と相談した結果、王斉麟と李洋のペアがいいのではないかという話になった。王斉麟は後衛からの攻撃に優れ、李洋は前衛の動きに長けているからだ。こうして陳宏麟は五輪出場をあきらめ、引退することを決めた。

陳宏麟の決断を受け、土地銀行チームは李洋に声をかけたが、李洋にとっては難しい決断となった。今のペアを解消すれば、それまでに得たポイントも世界ランキングもなくなる。さらに合作金庫を退職して土地銀行の試験を受けなければならない。「まさに人生の大博打でした」と李洋は言う。慎重な彼は2ヶ月考え、新たなスタートを切ることを決意した。

同じ目標に向かって努力する王斉麟と李洋は強い信頼関係で結ばれており、これからも多くの栄光を勝ち取っていくことだろう。

黄金ペアの誕

二人と親しい陳宏麟がコーチとなったことが、この新たなペアを成功へと導いた。李松遠によると、世界選手権出場を終えたばかりの陳宏麟は情報収集と海外選手の分析に長けていて、自分の経験も交えて二人を指導した。また陳宏麟は台湾で初めて、ダブルスと混合ダブルスの両方で世界トップ10に入った選手であり、二人から十分に尊敬されていた点も挙げられる。試合では冷静に形勢を分析し、優れた判断で二人を導いた。

優れたペアはパートナーの状況を随時分析し、コンビネーションを調整するものだ。二人は何ごとも正直に話し合う。「問題がある時は必ず相手に伝えます。より良いプレーを追求しているのですから摩擦もつきものです」と王斉麟は言う。

同じ目標を持ち、相手が最後まで支えてくれると信じているからこそ、二人の間には暗黙の了解が生まれる。2019年2月、二人は初めてペアとして国際大会に出場した。スペインマスターズで優勝し、続いてスイス、インド、アメリカなどで開かれたBWFワールドツアーでもすべて決勝に進出した。

2020年、新型コロナウイルスの影響で国際大会は開かれなくなった。だが、これによって二人は十分な時間をローテーションやテクニックの練習にかけられるようになった。「今年初めに僕たちは3大会に出場して15連勝し、自分たちが正しい軌道に乗っていること、呼吸が合っていることを実感しました」と李洋は言う。

だが思いがけないことに、破竹の勢いの二人が東京五輪の予選リーグ第一戦で敗れてしまったのである。

李松遠･総監督（一番左）の指導の下、陳宏麟（一番右）と李洋、王斉麟が力を合わせて金メダルを勝ち取った。（林格立撮影）

台湾人の精神

李洋によると、東京五輪の前まで台湾ではバドミントンといえば戴資穎や周天成などのシングルスの選手しか知られていなかった。「2017年の時点で、台湾の男子ダブルスは世界ランキングトップ10以上に3組も入っていたのに、台湾では知られていなかったのです」と言う。そこで二人は、ダブルスの注目度を高めるために勝たなければというプレッシャーを自らにかけ、それに加えて初めての五輪出場の緊張もあって、予選リーグの初戦でインドに敗れてしまったのである。

二人は、予選から勝ち上がるには初戦に勝たなければならないと考えていた。同じ予選グループにはまだ勝ったことのないインドネシアの強豪がいて、これに負ければベスト8には入れない可能性があったからだ。だが、優れたアスリートはメンタルも強く、すぐに気持ちを切り替えた。「希望はわずかだとしても、あきらめず、正しい態度で取り組もうと思いました」と李洋は言う。

そこで二人は、背水の陣でありながら、一球一球を大切に、残りのゲームを存分に楽しもうと考えた。東京五輪で最も印象深かった試合はと問うと、二人は口をそろえて「ミニオンズ」の愛称で知られるインドネシアのスカムルヨとギデオンのペアとの対戦だったと答える。「その時の王斉麟のプレーはすごく良かったです。いつもなら慌てて打ち返し、相手にチャンスを与えてしまうことが多いのですが、この試合では彼は落ち着いていて敵のペースをくずしていきました」

こうして順調に勝ち進んでいき、決勝戦では、それまで対戦したことのない中国の李俊慧・劉雨辰ペアと戦うこととなった。ゲーム開始直後からリードされたが、二人は息の合ったプレーを見せ、驚くべき気力と粘り強さで勝利した。こうして台湾にとって五輪男子ダブルス初の金メダルを取ったのである。

これを受けて、台湾ではバドミントンブームが起きてている。近年は政府による奨励や新たな実業団の結成、スポンサーとなる企業も増え、良い方向に発展していると李洋は語る。

李洋と王斉麟、陳宏麟の3人にとって五輪は一大会にすぎず、帰国後は再び練習に取り組み始めた。ネット上では2019年の世界バドミントン選手権の映像が盛んにシェアされた。李洋が3度にわたってスライディングで打ち返すラリーの様子だ。彼らは世界に台湾バドミントンの強さを見せつけるとともに、最後まで決してあきらめない台湾の精神をも世界に示したのである。

李松遠･総監督（一番左）の指導の下、陳宏麟（一番右）と李洋、王斉麟が力を合わせて金メダルを勝ち取った。（林格立撮影）

李松遠･総監督（一番左）の指導の下、陳宏麟（一番右）と李洋、王斉麟が力を合わせて金メダルを勝ち取った。（林格立撮影）