台湾における種子保存の特色
農業試験所作物種原組長の陳述は次のように説明する。台湾は亜熱帯と熱帯にまたがっているので、熱帯の果樹が栽培できるだけでなく、低温要求量の少ない温帯果樹も育つ。「将来的に、私たちは温帯果樹の最南端の種子保存基地となり得ます」と言う。
また陳述によると、台湾の作物は高温と水不足という課題に直面している。極端な気象現象が増えて水資源が均等に行き渡らなくなり、豊富な灌漑用水を必要とする水稲も危機に直面している。そこで、干ばつや病虫害に強い作物の選択を目標に、同センターでは台湾原生の山地の陸稲や野生の水稲などの遺伝資源を収集している。これらの品種はあまりおいしくないため、これまで放棄されてきたものかもしれないが、こうした地方の品種は病虫害や水不足、洪水に遭っても生き残る特性を持っていることが多いのである。「これらの品種は多くの宝を持っていて、交配や選別を通して将来の環境に適応できる新品種を見出せる可能性があります」と言う。
現在、国家作物種原センターは1万種の台湾の水稲を保存することに成功している。世界最南端のジャポニカ米や台湾の農家が栽培をやめたアマ、原住民文化として伝わってきた100種ものアワなど、すべて保存されている。
台湾で保存されている水稲の遺伝資源は他の国での応用にも提供されている。作物種原組の魏趨開によると、インドで栽培されている水稲の中には多数の台湾の品種が含まれている。またフィリピンにある国際稲研究所とも交流がある。
大理石で建てられた国家作物種原センターは吹き抜けのある2階建てで、ここには10万に上る穀類や野菜の種子が、目的別に、短期、中期、長期の保管庫に保存されている。短期保管は研究用、中期保管は交換や繁殖用で、定期的に保存畑に植えられ、発芽率を計測する。長期保管はマイナス20℃の低温・低湿の環境で永久保存しており、品種によって50~100年保存される。
1999年の台湾大地震で霧峰は甚大な被害に遭った。農業試験所は車籠埔断層から500メートルしか離れていないため、試験所の正門前の道路も隆起したという。しかし、内部の保管庫では棚が一つ歪んだだけで「種子は一粒も落ちませんでした」と陳述は振り返る。政府が建てたシードバンクは耐震性の高いものだったのである。保管している種子の安全を確保するために、国家作物種原センターでは水稲や雑穀、野菜などの1万2000の種子をノルウェーのスヴァールバル世界種子貯蔵庫にも保管している。
世界野菜センターは世界で最も多品種、多様な野菜の遺伝資源を保管している。