台湾の多様性
映画祭の企画のために、陳絵弥は2018年に台湾に戻り、400本以上の作品を見て、5年間の映画祭企画をスタートした。イギリスを拠点に、北欧の国を年に一つ訪れ、テーマ映画祭のスタイルで、台湾をイギリスと北欧の人々に紹介する。
「海外では台湾と言えば、政治面で中国との関係が注目されますが、私は文化から台湾を紹介したかったのです。台湾はアジアの他の国と比べて人も多様で、善良な気質と包容力があります」
そこで、第一回映画祭は「アレルギー体質」をテーマとした。映画作品は、台湾原住民族の戦い、同性愛、ホームレス、戒厳令時代といったトピックに渡り、ほかの華語圏や国々では言論統制で制作や上映ができない話題が表現されている。言論の自由がある台湾であれば、思う存分、深掘りして表現できる。台湾の多様性も伝わる。
陳絵弥はイギリスの国立近現代美術館テート‧モダンと共同で、バーチャルリアリティの映画館を設立し、イギリスで蔡明亮監督のVR映画『蘭若寺の住人』を上映し、VR技術の前衛芸術を披露した。映画祭と同時に行なった蔡明亮、陳芯宜、魏徳聖、黄信堯をはじめとする13人の映画人によるシンポジウムは、ロンドンとアイスランドで台湾映画ブームを巻き起こした。
彼ら映画監督は台湾の豊かな創作エネルギーを体現する。アイスランドと台湾は微妙に似ているという。小さな島国で、アイスランドは『スターウォーズ』や『ゲーム‧オブ‧スローンズ』などスペクタクル作品のロケ地である。だが、アイスランド国内の制作は低予算の作品ばかりだ。一方、台湾では、魏徳聖監督が手掛けた大作『セデック‧バレ』が5億台湾元の資金を投じて制作されており、台湾の大いに違う点である。
陳芯宜監督は、EUメディアの先入観を破り、台湾には映像作品に強い意志で取り組む女性監督がいることを示す。ドキュメンタリー作品『行者The Walkers』は、振付師‧林麗珍と氏のダンスグループ「無垢舞踏劇場」を十年かけて撮影した。台湾の粘り強さと頑強さを示している。